近時、年俸制を採用する企業が増えています。年功序列型の賃金体系より、欧米流の成果主義の賃金体系を志向するケースが増えています。年齢・学歴・勤続年数等で給与が決定されるのではなく、個人の業績や成果に応じて、相応の賃金を受け取る制度を採用することが、社員のやる気を促し、企業の活性化にもつながると考えられているようです。しかし、年俸制といっても、労働者に支払う賃金である限り、労働基準法の定めはもちろん守らなければなりません。
Point1
年俸制であっても賃金支払い5原則は守らなければならない。
Point2
年俸制であっても残業はしっかりと支払う。 。
年俸制と賃金支払い5原則
年俸制であっても、労働基準法で定められている賃金支払いの5原則は守らなければなりません。賃金支払い5原則とは「賃金は、
①通貨で、②直接労働者に、③全額を、④毎月1回以上、⑤一定の期日
を定めて、支払わなければならない」というものです。
よって、年俸制であっても、半年分をまとめて払うことはできず、最低でも毎月1回以上、期日を決めて支給しなければなりません。 また、毎月の支払いが、労働時間から計算した最低賃金を上回っていなければなりません。
「年俸制=残業代不要」という根強い誤解
大阪地裁平成14年5月17日判決(創栄コンサルタント事件)は、
年俸制を採用することによって、直ちに時間外割増賃金等を当然支払わなくともよいということにはならないし、そもそも使用者と労働者との間に、基本給に時間外割増賃金等を含むとの合意があり、使用者が本来の基本給部分と時間外割増賃金等とを特に区別することなくこれらを一体として支払っていても、労働基準法37条の趣旨は、割増賃金の支払を確実に使用者に支払わせることによって超過労働を制限することにあるから、基本給に含まれる割増賃金部分が結果において法定の額を下回らない場合においては、これを同法に違反するとまでいうことはできないが、割増賃金部分が法定の額を下回っているか否かが具体的に後から計算によって確認できないような方法による賃金の支払方法は、同法同条に違反するものとして、無効と解するのが相当である」
とした上で、
「被告における賃金の定め方からは、時間外割増賃金分を本来の基本給部分と区別して確定することはできず、そもそもどの程度が時間外割増賃金部分や諸手当部分であり、どの部分が基本給部分であるのか明確に定まってはいないから、被告におけるこのような賃金の定め方は、労働基準法37条1項に反するものとして、無効となるといわざるを得ない。」と判断しています。
つまり、労働基準法どおりの計算による割増賃金として充当される額が明示され、または、充当されることになる額が容易に算定可能であることが必要なのであって、そうなっていない限り、会社は、年俸とは別に割増賃金を支払う必要があるわけです。
例えば、残業代や諸手当もすべて込みで年俸として480万円とした場合、月額支給額25万円のうちの5万円が、予定割増賃金部分であり、割増賃金が月額5万円を超えている場合には、その不足分を支給するというような取り決めにでもなっていない限り、仮に年俸制であっても、割増賃金分の全額について会社は支払わなければならないのです。
年俸の決定基準
年俸の決定基準は、会社がそれぞれで定めることができます。一般的には、「会社業績」「部門業績」「個人の役職・責任」「個人評価」「来期への期待」などを総合的に考慮して、本人との話し合いを経て決定しているケースが多いようです。
また、年俸の一部を変動的に支給しているケースもよく見られます。例えば、年俸を16等分して、1ずつを毎月の給与に、2ずつを夏と冬の賞与に振り分けるといったものです。この場合、毎月の給与は固定金額となりますが、2回の賞与の金額については、業績などに応じて変動させるため、当初決定した年俸はあくまでも「基準の年俸」という扱いになります。このような方法をとれば、年俸制であっても、よりタイムリーに金額を業績と連動させることができます。