【2019年4月施行】有給休暇取得率向上に向けた取り組み事例を詳しく解説!

2019年05月15日

2019年4月より始まる「有給休暇5日取得の義務化」。年次有給休暇のうち5日については、雇う側が休むように促し、日を決めて休ませなければならないようになりました(※参考記事)。
この法律改正に絡んで、本記事では「有給休暇取得率の向上が経営に及ぼす影響」と「取得率向上に向けた取り組み」についてご紹介します。

(※)参考記事:有給休暇義務化にむけて押さえておくべきポイントとは?

「ヒトを大切にする経営」が求められる理由

今、採用市場は未曽有の売り手市場が続いています。直近の有効求人倍率は1.64倍(2018年9月季節調整値)。これは、1974年1月以来の高い水準で、2008年のリーマン・ショックで下落して以降、右肩上がりに上昇し続けています。
有効求人倍率とは、一人あたりに何件の求人があるかを示す数字です。この数字が「1」を上回ると「求職者<求人数」、つまり人材が不足している状態だと言えます。

有効求人倍率の推移

有効求人倍率の推移

【引用元】独立行政法人労働政策研究・研修機構「有効求人倍率、新規求人倍率」

一方、完全失業率も同じ傾向を示しており、労働力調査によると直近2018年9月は2.3%。完全失業者数は、100カ月連続で減少を続けており、「完全雇用」とも呼べる低水準となっています。

そのため「求人を出してもまったく応募が集まらない」という状況はもはや日常茶飯事。人材の獲得がとても難しい時代に突入しました。

そんな時代だからこそ、求められていることが「ヒトを大切にする経営」です。人材を獲得し定着させるためには、外からの見た目がいいだけでは決して十分ではありません。中の人材が定着し、力を発揮できるよう経営自体を変えていく必要があります。

優先して「変えていくべきこと」のひとつが、働き方なのではないでしょうか。昭和時代から続く「24時間戦えますか」風土に終止符をうち、ポスト平成の働き方へと大きく舵をきる節目が今です。長時間労働や休みづらい環境を変え、ヒトを大切にする経営が求められています。

ヒトを大切にする経営とも関わる「有給休暇の取りやすさ」について、「有給休暇取得率を上げるために何をすべきか」について以下でご紹介します。

有給休暇取得率向上のための取り組み

労働政策研究・研修機構の調査により、有給休暇を取得しない理由には以下のようなものがあると指摘されています。

  • 「病気や急な用事のた めに残しておく必要があるから」(64.6%)
  • 「休むと職場の他の人 に迷惑をかけるから」(60.2%)
  • 「仕事量が多すぎて休んでいる余裕がないから」(52.7%)
  • 「休みの間仕事を引き継いでくれる人がいないから」(46.9%)
  • 「職場の周囲の人が取らない ので年休が取りにくいから」(42.2%)
  • 「上司がいい顔をしないから」(33.3%)
  • 「勤務評価 等への影響が心配だから」(23.9%)

【引用元】独立行政法人労働政策研究・研修機構「年次有給休暇の取得に関する調査」

確かに身近な人たちからも、聞こえてきそうな理由ばかりです。

では、これらに対してどんな対策や取り組みを行えば、有給休暇取得率向上につながるのでしょう。上記の取得しない理由を、「個人に起因するもの」「企業に起因するもの」そして「両方に起因するもの」に分けてみました。

有給休暇を取得しない理由

「個人に起因」する問題は、企業が関与しえない個人の事情もありそうなので優先度を下げ、ここでは「企業に起因」「個人&企業に起因」する問題について、どんな取り組みを行うことで改善するかを考えます。

1.「多すぎる仕事量」問題

これは業務プロセスを見直す必要がありそうです。

【取り組み例】
ITなどを活用して無駄な仕事を減らす
人材を補充してワークシェアをする
出せる仕事は外部に出す

2.「引継ぎ先の不在」問題

これは仕事の属人化が問題です。

【取り組み例】
ペア制やチーム制にして一人担保にしない
個人の仕事の進捗状況をオープンにし、他の人でも対応できるようにする

3.「上司の態度」問題

これは管理職への教育で解決できる問題です。「クイズに全問正解すれば有給休暇取得のチャンス!」というメールを送った上司がニュースになったのは記憶に新しいこと。やってはいけないことについて、経営側が指導しなければなりません。

【取り組み例】
経営側が、管理職に対して有給休暇についての教育を行う
管理職が率先して有給休暇を取得する

4.「取りにくい空気」「他人への配慮」「評価が心配」問題

これは休みやすい雰囲気づくりをしていく必要がありそうです。有給休暇取得を会社が推進しているというメッセージを強く伝える必要があります。

【取り組み例】
有給休暇促進のアナウンスを経営者や管理職が定期的に行う
有給休暇を取得した場合にインセンティブをつける
有給休暇取得者の活用事例をイントラなどで紹介する

ちなみに、「評価が心配」という声がありますが、有給休暇を取得したことを理由に減給したり、評価を下げる行為は労働基準法で禁止されています。逆に、有給休暇を取得しなかったことを理由に昇格させたり、評価を上げる行為も法律違反となり罰則を受ける可能性があるので、注意が必要です。

有給休暇取得率が高い企業の取り組み事例

では、他社は具体的にどんな取り組みや工夫を行なっているのか。その事例の一部をご紹介します。

【事例1】メンバーの有給休暇取得をマネージャーの義務に(日本システムウエア)

【取り組み内容・事例】
メンバーにNSW ホリデイを取得させるよう、マネージャーに義務づけ。マネージャーの指導と管理によって、全員が休める業務運営を構築。
※NSW ホリデイ=会社独自で設定した5連休の特別休暇

この取り組みのポイントは、マネージャーの義務とした点。先述の「多すぎる仕事量」「引継ぎ先の不在」「上司の態度」問題がある以上、有給休暇の取得率を上げるためには、マネージャーの協力が必要不可欠です。マネージャーに責任を持たせることで、業務プロセスの見直しが入り、有給休暇を取りやすい環境醸成につながった事例です。実際、NSWホリディの取得率は90%以上で、ほぼ全員が活用。全体の有給休暇取得率向上にもつながっているそうです。

【事例2】有給休暇取得に対して、有給休暇をインセンティブとしてつける(三菱化学)

【取り組み内容・事例】
有給休暇を 2 日以上連続で取得すると、年度に1 回、1 日の特別休暇が付与される仕組み「ライフサポート休暇」を導入。

この取り組みのポイントは、有給休暇の取得にインセンティブをつけている点です。有給休暇を取ろうか取るまいか悩んでいる人にとっては、背中を押してくれる取り組みだと思います。私の前職でも、事前に申請した通りに有給休暇を取得すると、スターバックスカードがもらえるというインセンティブがありました。インセンティブがつくようになってから、有給休暇が取りやすい雰囲気になったと記憶しています。

【事例3】マネージャーが有給休暇取得の促進をするタイミングを工夫(NECソフト)

【取り組み内容・事例】
プロジェクトが一段落する節目のタイミングで、マネージャーがメンバーに声をかけ、調整をして、年次有給休暇の取得を促進。

世の中には、SE・PG・コンサルタントなど、プロジェクト単位で仕事に取り組む職種が一定数あります。プロジェクト単位での仕事の場合、プロジェクトが終了してから、次のプロジェクトに参画するまでが一息つけるタイミング。そのタイミングを狙って、マネージャーから声をかけるという仕組みをつくり、有給休暇取得率向上に成功した例です。

【引用】国土交通省「企業事例編:先進8社の「休暇取得促進」ケーススタディ」

時間単位での有給休暇付与

有給休暇は、本来1日単位あるいは半日単位で取得するものですが、労使協定を結べば、1時間単位で取得できるようにすることも可能です。
たとえば、「子どもの保護者会のために、3時間だけ休みたい」「病院に立ち寄ってから会社に向かうので、朝の2時間だけ休みたい」といった有給休暇の使い方ができます。

ただし「まとまった休みを取得してゆとりある労働生活の実現をする」という有給休暇の本来の趣旨より、時間単位で取得できるのは「5日分まで」。以下の図のように5日分以内なら時間に分割して取得ができるという制度です。

時間単位年休の仕組み

【引用】厚生労働「労働基準法の一部改正法が成立:時間単位年休の仕組み」

この時間単位の有給休暇制度は、「就業規則での定め」と「労使協定の締結」の2つのプロセスが必要。このプロセスを踏めば導入が可能です。手続きはそれほど難しくないので、取得率向上に力を入れるのであれば、ぜひ導入をご検討ください。

以上、有給休暇取得を促進するために、どんな取り組みを行えば効果的かについて、事例も含めてご紹介しました。

有給休暇取得率が高いと、経営にどんな影響をもたらすのか

「有給休暇が取りづらい企業」と「有給休暇が取りやすい企業」、あなたならどちらで働きたいですか?おそらく、大半の方が後者を選ぶでしょう。

先日取材させていただいたITエンジニアの方も、こうおっしゃっていました。「仕事内容はほとんど同じですが、前の会社はほとんど有給休暇の取れない会社だったんです。だから、転職して有給休暇の取りやすい今の会社に来ました」と。

「有給休暇の取りやすさ」が働く場として選ばれる要因となっていることは事実です。この点から、有給休暇取得率が高いと優秀な人材を確保しやすいと言えます。

また、有給休暇が取得できないことから、一度でもブラック企業とのレッテルを貼られてしまうと、ブランドイメージの回復に相応の時間がかかります。逆に、取得率が高い企業は、「働く人に優しい」とのイメージを与えることができるでしょう。このイメージは、人材の獲得という場面にとどまらず、あらゆる場面で活きてくるはずです。

ヒトを大切にする経営――ヒトなくしては企業の運営は難しいですし、ましてや成長はありえません。長時間労働や休みづらい環境を変え、ヒトを大切にする経営へ。昭和的な経営や働き方から脱却しポスト平成に向かって、変えていける部分は早急に変えていく必要がありそうです。

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以上、「有給休暇取得率の向上が経営に及ぼす影響」と「取得率向上に向けた取り組み」についてご紹介しました。

林 和歌子
大学卒業後、人材サービス大手で約12年間勤務。主に企業の採用活動に携わる。採用という入口だけではなく、その後の働き方にも領域を広げたいとの思いで独立。現在、採用支援を手がける傍ら、働き方に関するコンテンツなども執筆しています。京都大学文学部卒業(社会学専攻)。2015年、社会保険労務士の資格取得。
2019年05月15日