【社労士が提案】働き方改革、ポジティブに残業時間を減らしていくための対応方法とは?

2019年03月29日

2018年6月に成立した「働き方改革関連法」。これにより、時間外労働の上限規制が今以上に厳しくなります。特別条項付きの36協定を締結しない限り、時間外労働の上限は「月45h・年360h」です。特別条項を結ぶ場合であっても、これまでのように青天井ではなく、上限時間が設けられました。長時間労働の打開に向けて鋭くメスが入った今回の法改正。長時間労働を、ポジティブに是正していくためには、どのような対応をしていくべきなのでしょうか。

残業を減らすために取り組むべきこと

「働き方改革関連法」が本格的に始動するこの春、時間外労働を「月45h・年360h」におさめるよう“お触れ”が出ている企業も多いのではないでしょうか。日本を代表するカルチャーとも言える長時間労働。是正していくためには、“お触れ”も打ち手のひとつではありますが、まずは現状の分析から始めることをお勧めします。

現状の分析をすることが第一

就業時間に関するデータはどの企業も細かく取得しているはずなので、それをもとに現状を分析してみましょう。

STEP① 「場所」の特定

まずは、長時間労働が発生している「場所」の特定をします。基準とすべき時間は、36協定の限度時間である「月45h」が妥当でしょう。月45h以上、恒常的に残業が発生している場所をピックアップし、どこを改善すべきなのかを特定します。

ピックアップした結果、長時間労働が恒常化しているのが「会社全体」なのかもしれませんし、「ある特定の部署」なのかもしれません。あるいは「特定の役職」「特定の年齢」なのかもしれませんし、「特定の人」なのかもしれません。「場所」によって、打ち手も変わってくるので把握しておくことが重要です。

また、統計解析が得意な人なら、残業時間(あるいは総労働時間)と因果関係がありそうな要素を探してみるのも手です。Excelの分析ツールを使えば、例えば労働時間と年齢の相関などは簡単に出せます。

STEP② 「理由」の特定

場所が特定できたら、理由を探ります。対象となる人数が少ないなら、時間をとってインタビューするのが一番早いと思います。ただし、インタビュアーはできるだけ仕事上での関連の薄い人を選びましょう。直属の上司や人事権を持つ人事だと、本音が聞き出せない可能性が高いからです。対象となる人数が多すぎるならアンケート調査でも構いませんが、何人かはやはりピックアップして、直接話を聞いてみるべきです。

理由を特定する際のヒントですが、長時間労働が恒常化している「場所」からある程度推測もできます。「会社全体」なら、企業文化に問題があるケースが多いです。少し前に話題となった大手広告代理店に関しても、企業文化が大きな原因でした。「ある特定の部署」なら、その部署のトップの考え方なのか、仕事の進め方なのか、仕事量が問題なのでしょう。

「特定の役職」というケースもありますね。特に昨今、中間管理職に仕事が集中する傾向が高まっているそうです。「特定の年齢」というケースもあります。年齢が上がるほど働く時間が長く、逆に20代は短いかもしれません。また、40代、50代は生活費がふくらむ年齢なので、生活残業が多いとの推測もできます。

「特定の人」というケースもあるでしょう。仕事の進め方がスマートではないのかもしれませんし、仕事を抱え込みすぎている、必要以上に丁寧に仕事をしている、あるいは自宅に帰りたくない理由があるのかもしれません。

「集中」「感染」「遺伝」する残業発生のメカニズム

長時間労働の理由を探るためには、残業発生のメカニズムを明らかにした調査結果もヒントになります。立教大学の中原淳教授とパーソル総合研究所の合同研究をもとに執筆された本『残業学』の中で、残業が発生するメカニズムについて解説がされていました。どうやら残業は「集中」「感染」「遺伝」するという特性があるようです。

残業学

「集中」とは、一部の人に残業が集中する特性のことです。特に、仕事ができる社員に残業が集中する傾向があるそうです。これは、管理職がメンバーに仕事を振る際、ついつい優秀な部下を優先して仕事を振ってしまうことに起因しています。また、グレードに分けると「課長」に最も残業が集中しています。

「感染」とは、残業が職場内の同調圧力によって空気感染する特性のこと。「定時ピッタリでは帰りづらい雰囲気」「上司よりも先に帰ってはいけないという暗黙のルール」などが、仕事が終わっても帰りづらい空気を醸成してしまうようです。「付き合い残業」という言葉がありますが、まさにこのことを示す言葉ですね。

「遺伝」とは、長時間労働に慣れた上司のもとで育つ若手は、同じく長時間労働体質になるということ。確かに、若い頃は上司と1日8時間にわたり同じ場所で仕事をし、仕事のイロハもすべて上司から学んでいくので、影響を受けないわけがありませんね。

これらの残業発生メカニズムは、自社の長時間労働の理由を探る上でヒントになるはずなので、ぜひ参考にしてみてください。

残業削減のための取り組み例

STEP③ 「対策」の策定

さて、長時間労働が恒常化している「場所」も「理由」も、ある程度分かりました。次は、どう解決するか。その対策を考えます。以下に、私が知りうる限りの残業削減メソッド(取り組み例)を並べたので、「場所」と「理由」を考慮の上、活用できそうなものがあれば参考にしてください。

無駄な会議の削減(最大でも1時間、当事者5名までの参加、立ち会議など会議ルールを設ける)
無駄な資料、丁寧すぎる資料をやめる
あらゆる部門でのペーパーレス化を進める
業務の仕分け・断捨離(形骸化している業務はすべて捨てる)
業務の自動化(RPAや効率化ツールを導入する)
アウトソーシングの活用
業務ローテーションを行い、仕事の属人化を防ぐ
ノー残業デイの設置
有給休暇の取得促進
フレックスタイム制の導入
リモートワークの導入
時間外労働を事前許可制にする
PCの強制シャットダウン(21時~翌7時までは社用PCが使えないようにするなど)
定時以降、電話は留守電に切り替える(クライアントからの急な依頼を受けつけない)
オフィスの消灯
ドローンによるオフィス巡回、退社の促進
早朝勤務の奨励、朝食の提供
放課後社外活動への参加を奨励(業務に紐づく活動なら費用を補助するなど)

残業削減を、“ポジティブ”に変えていくには?

上記のようにさまざまな取り組み例がありますが、これらを働く人すべてに“ポジティブ”に受け止めてもらうには、やり方の工夫も必要です。どのような工夫をすれば、“ポジティブ”に変革していけるのでしょうか。

ボトムアップ施策も盛り込む

現場置き去りの施策にしないためには、現場を巻き込んでいくことも大事です。例えば、働き方改革プロジェクトチームを、長時間労働が恒常化している部署の中に立ち上げて、現場手動で原因を探り、打ち手を考えていくのもひとつの方法。

社内の文化や空気を変えていくためには、トップダウンだけではなく、この取り組みに共感してくれる仲間を現場から募り、現場手動、あるいは現場を巻き込みながら、空気を変えていく工夫が重要です。

浮いた残業代は社員に還元する

働く側から見れば、「残業時間が減る」=「残業代が減る」ことになります。経営者側から見ると人件費が浮いて万々歳なのかもしれませんが、社員の士気が下がってしまっては本末転倒。士気の下がった会社では働きたくありません。そうしないためには、浮いた残業代は社員に還元すべきです。

例えば、賞与として還元してもいいですし、特別手当として還元してもいいでしょう。「残業時間削減キャンペーン」は、ともすれば「残業代削減キャンペーン」に見えがち。そうならないように工夫と発信をしていくと効果的です。

実際、ITソリューションカンパニーであるSCSK社は、削減した残業代を全額社員に還元することを前提として、残業時間の削減に取り組んだそうです。その結果、月平均35hから月平均16hまで圧縮することに成功。ポジティブに全員が一体となって取り組むには、浮いたお金を社員に還元することを前提として、各施策を進めることをお勧めします。

時間ではなく生産性も評価軸に

「仕事量」や「成果」を評価する仕組みはあっても、それを時間で割った「生産性」を評価する会社は意外と少ないというのが、私個人の印象です。会社の競争力を損ねずに残業時間を削減するためには、やはり生産性の向上をセットで考えねばなりません。

そのためには、生産性が高い人にこそインセンティブがつく仕組みを整えるべきでしょう。仕事量や成果が数値化されているのであれば、それを総労働時間で割ると、容易に生産性も数値化できます。決まった時間の中で、どれだけの成果を上げることができたかが、これからの時代に求められる資質。残業に対してペナルティを科すのではなく、生産性の向上にインセンティブをつける仕組みにすることで、ポジティブに取り組めるはずです。

ちなみに、現行の法律では、時間外労働に対して25%以上の賃金加算を行うことが決められています。これは、企業へのペナルティとして生まれたルールですが、結果として働く側の長時間労働を助長することにもつながっていると感じます。「長く働く方がたくさん稼げる」という現状を変えていくためには、「生産性が高い方が稼げる」という仕組みに変えていく必要があります。おそらく評価される人材が入れ替わりますが、これも時代の流れなのではないでしょうか。

将来的には残業なしでも成立する経営へ

どうしてもネガティブなイメージがつきまとう「残業時間削減」という言葉。「新規採用が難しい中、繁忙期を残業なしでどう乗り越えようか…」という経営者の悩み。「メンバーの就業時間管理や仕事の振り分けに消耗する…」という管理職の溜息。一般社員からは「残業代を見越して生活設計をしてきたのに!」という不満が聞こえてきます。過労死の問題もあるし、長時間労働是正の必要性は分かるものの、一体誰のための改革なのか?そんな意見を持つ人も多いのではないでしょうか。

誰のための改革なのか?もしかしたら、従来の慣行に慣れすぎた人たちの中では、残業削減に対して諸手を挙げて喜ぶ人は、そう多くはないのかもしれません。ただ、次世代はどうでしょうか。今の子どもたちが成長した時に、どんな働き方になっていることが理想なのか。視点を10年後、あるいは20年後に置き、次世代のために、今の人が打開すべき問題は何なのかを考えると、自ずとなすべきことや、それに向かうエネルギーが沸いてくる気がします。

未来の働き方を明るくするための働き方改革。現状を踏まえると、丁髷を切り落とす位の勇気とエネルギーが必要かもしれません。しかし、明治時代に丁髷を切り落とす人たちがいなければ、今でも私たちは丁髷だったわけです。

昭和から連綿と続く長時間労働も切り落とさなければ、ポスト平成になっても昭和のままです。1日10時間以上の労働は適切ですか?10年後、20年後も同じように、1日10時間以上働いていたいですか?子どもたちに、1日10時間当たり前のように働く社会を、そのまま残したいですか?答えはNOです。

私には保育園に通う息子と娘がいますが、将来的には性別関係なくどちらも等しく世の中に貢献してほしいですし、仕事を通して充実感を得てほしいと思います。一方で、仕事以外の趣味を楽しんだり、家庭を大切にできる時間も持ってほしいです。決して、仕事でうつ病にはなってほしくないですし、ましてや過労死など考えたくもありません。

長時間労働は、もはや流行りません。若い人との接点が多い人は、若手の仕事観の変化を肌で感じているのではないでしょうか。時代の変化に乗り遅れると、ますます若手の流入は減り、職場の高齢化が進むでしょう。やがて会社が衰退していくことが予見されます。既にそうなってしまっている業界や職種も事実ありますね。手遅れになってしまうと、後々苦労します。変えるなら今です。

ライター:林 和歌子
大学卒業後、人材サービス大手で約12年間勤務。主に企業の採用活動に携わる。採用という入口だけではなく、その後の働き方にも領域を広げたいとの思いで独立。現在、採用支援を手がける傍ら、働き方に関するコンテンツなども執筆しています。京都大学文学部卒業(社会学専攻)。2015年、社会保険労務士の資格取得。
2019年03月29日