【社労士が解説】入管法改正に絡んで再確認しておきたい、外国人雇用のポイントと注意点!

前回の記事」では、2019年4月から始まった改正入管法の中身についてご紹介しました。続くこの記事では、新設された在留資格「特定技能」を活用して、外国人労働者を採用・雇用するまでの具体的な流れについてご紹介します。また、外国人が安心して日本で働くために、私たちが気をつけるべきポイントについてもまとめたので、外国人の受け入れを検討している企業は、ぜひ参考にしてください。

外国人の採用から勤務までの流れ

日本で就労可能な在留資格については、複数あると「前回の記事」でご紹介しました。ここでは、法改正により新設された在留資格「特定技能」を活用して、外国人労働者を採用・雇用する場合の流れについてご紹介します。以前からある「技術実習」とは流れが異なるので、混同しないようご注意ください。

「海外にいる」外国人を採用する場合

まず、「海外にいる」外国人を日本に呼びよせて、日本国内の企業で働いてもらう場合のフローからご説明します。法務省作成の以下の図をもとに、ポイントを確認していきましょう。

▼STEP1 採用候補者を決め、「特定技能」取得の準備をする

まず、求人媒体や現地のエージェントなどを通じて、採用候補者を探します。採用候補者が決まれば、在留資格「特定技能」取得のための準備をしてもらいます。もし採用候補者が「技能実習2号」の修了者であれば、準備は不要。なければ、技能と日本語の試験勉強が必要です。これは、「特定技能」を取得できる条件が、「技能と日本語能力を問う試験に合格するか」、もしくは「技能実習2号の修了者であるか」のいずれかだからです。

技能と日本語能力を問う試験は、2019年4月現在、3分野(外食・介護・宿泊)のみ、かつ“国内”でしか実施されていませんが、今後、“海外”でも実施される予定です。海外在住の外国人に、わざわざ試験のために来日してもらうことは現実的ではないので、国外試験を受験してもらうとよいでしょう。

ただし、試験合格までには相当の時間がかかると予想されます。ですから、技能実習2号修了者、あるいは特定技能の試験に合格済の人(ほとんどいないとは思いますが)に限って、採用活動をするのもひとつの手です。

▼STEP2 「特定技能雇用契約」の締結

採用候補者が決まり、「特定技能」取得のための準備(試験合格、あるいは技能実習2号修了)が整えば、「特定技能雇用契約」という雇用契約を結びます。「特定技能雇用契約」とは、在留資格が「特定技能」の外国人と企業が結ぶ雇用契約のこと。以下の点に留意して、雇用契約を結ぶよう定められました。

✓「農業」「漁業」を除き、直接雇用(派遣はNG)
✓ 報酬額(給与)が、日本人と同等以上であること(外国人を理由に待遇を下げない)
✓ 労働時間や待遇(教育訓練・福利厚生施設など)で、日本人と待遇差をつけない
✓ 外国人が一時帰国を希望する場合は、必要な有給休暇を与える
✓ 雇用契約終了後、外国人が帰国の旅費を工面できない場合は、企業が旅費を負担する
✓ 外国人の健康状態や生活の状況を把握し、必要な対応を行う

なお、雇用契約の締結にあたっては、採用候補者(外国人)が理解できるよう、現地の言葉に翻訳するなどの配慮が必要です。双方の理解と合意がなければ、契約を締結したとは言い難いからです。

▼STEP3 「1号特定技能外国人支援計画」を策定(委託可)

次に、外国人受け入れのための準備を始めます。採用候補者は、他国から文化も言語も異なる日本へと来て働くことになるので、各方面でのサポートが不可欠です。具体的には以下の基準をもとに、支援の内容を決め、受け入れの準備を整えましょう。

【支援計画の基準】

1.入国前の事前ガイダンスの提供
 (労働条件や手続き方法など、必要な情報を事前に提供する)
2.出入国する際の送迎
 (来日時と出国時の送迎を行う)
3.住居・生活に必要な契約に関わる支援
 (快適に生活できる住居の提供・あるいは見つけるための支援を行う。
  日本での生活に必要となる銀行・電気・ガス・水道などの契約をサポートする)
4.生活オリエンテーションの実施
 (金融機関や医療機関の使い方、交通ルール、ごみ捨て等の生活ルール、マナー等について説明を行う)
5.日本語学習機会の提供
 (日本語習得のためのスクールやオンライン講座、教師などを紹介する)
6.相談又は苦情への対応
 (外国人が気軽に相談できる窓口を設け、相談があれば即座に対応する)
7.日本人との交流促進に関わる支援
 (外国人が孤立しないよう、日本人との交流イベントなどを企画し、参加を促す)
8.外国人起因ではない理由で、特定技能雇用契約を解除する場合の転職支援
 (倒産などにより、雇用契約を破棄せざるを得ない場合は、転職支援を行う)
9.定期的な面談の実施,行政機関への通報
 (支援責任者は、外国人やその上司と定期的に面談を行う)

【参考】法務省『1号特定技能外国人支援に関する運用要領』

この支援計画の作成については、「登録支援機関」に委託することも可能です。「登録支援機関」とは、外国人の受け入れ支援を専門に行う機関のことで、現在はまだ設置数が少ないですが、今後増えていく見込みです。

【参考】法務省『登録支援機関』

▼STEP4 「在留資格認定証明書」交付申請、受領、送付

次に、地方出入国在留管理局で「在留資格認定証明書」の交付申請を行います。「在留資格認定証明書」とは、採用候補者の在留資格の取得を“予約する”証明書です。この申請は、一般的には外国人を受け入れる企業が行います。

「在留資格認定証明書」を受け取ったら、その原本を海外にいる採用候補者に郵送します。採用候補者は、「在留資格認定証明書」をもとに、本国でビザ(査証)を申請・取得、そして日本へ入国します。入国審査の後、在留資格が正式に付与されるという流れです。

【参考】法務省『在留資格認定証明書交付申請』

▼STEP5 来日後、支援計画で決めた支援を実施(委託可)

日本の生活に不慣れな採用候補者が、日本での生活に馴染んでいけるよう、しっかり情報提供、サポートを行いましょう。なお、採用した外国人労働者は、入国後、市区町村に住所、地方出入国在留管理局に、氏名、生年月日、所属機関などを届出る必要があります。届出についても、可能な限りフォローしましょう。

この部分に関しても、「登録支援機関」に委託することができます。

▼STEP6 就労開始、各種届出

生活できる体制が整えば就労開始です。受け入れ企業は、ハローワークに「外国人雇用状況の届出」を行います。届出を怠ると、30万円以下の罰金が科されるため、注意が必要です。(離職の際にも届出が必須)

【参考】厚生労働省『外国人雇用状況の届出』

以上が、「海外にいる」外国人を採用、「特定技能」の在留資格を活用し、日本で就労してもらう場合のフローです。

「日本にいる」外国人を採用する場合

では、「日本にいる」外国人を採用する場合はどうでしょう。日本にいる外国人を採用する場合は、海外の外国人を採用するよりもシンプル。海外の外国人を採用する場合と大きく異なる点は(★)印の部分、在留資格の変更です。

日本に滞在する外国人の場合、すでに何らかの在留資格を保有しているはずなので、それを「特定技能1号」に変更します。もちろん、「特定技能1号」を取得するためには、前提として、特定技能1号の試験に合格していること、あるいは技能実習2号の修了者である必要があります。なお、この変更手続きは、原則として外国人本人が行います。

すでに保有する在留資格の確認方法ですが、採用候補者(外国人)が所持する在留カードの中に記載があります。以下のカードでは、「留学」となっている部分です。

在留カード

(★)印以外のフローについては、「海外にいる」外国人を採用する場合と同様です。

外国人を雇用する際のポイントと注意点

「特定技能」で外国人を日本で雇用する場合に、必ず守らねばならないことは、日本人と同等以上の報酬、待遇、労働時間に設定すること。最低賃金法も、労基法も適用されます。

また、日本人と同様に、社会保険への加入が必要です。労災はもちろん、所定労働時間に応じて、健康保険、厚生年金、雇用保険への加入も必須。「外国人なのに厚生年金も?」と感じるかもしれませんが、年金にも加入します。保険料が労使折半である点も、日本人と何ら変わりません。

なお、外国人の場合、厚生年金は掛け捨てになるケースが大半となりますが、脱退一時金制度を使えば部分的に返還されます。日本に呼びよせて働いてもらう以上、日本人と同様に日本の法律下で働くと考えれば、分かりやすいでしょう。

外国人が安心して働ける職場にするために

改正入管法が成立する直前、外国人実習生の低賃金や劣悪な労働環境が物議をかもしました。ニュースでは、時給300円で178時間の残業を強いられたり、パワハラを受けたり、在留カードを取り上げられたり、来日前に提示された額よりも実際の支払いが少なかったり、ブローカーの暗躍があったり・・・。数多くの耳が痛い事例が報道されました。

これらの反省をふまえ、外国人が安心して仕事に取り組めるようにするためには、どんな工夫が必要なのでしょうか。日本で暮らす外国人の声に耳を傾けながら考えてみます。

外国人労働者

国交省が在住外国人に対して行ったアンケートによると、日常生活で一番困ったことは「言葉が通じないこと」だそうです。想定通りではありますが、「語学面での支援」は不可欠でしょう。外国人労働者に日本語を習得してもらうのもひとつの手段ですが、たとえば業務マニュアルを多言語化するなどの対応も必要かもしれません。多くのベトナム人を雇用している会社では、ベトナム人の通訳スタッフを雇っている事例もあるようです。

語学に次いで多い困りごとが、「文化や習慣の違い」。たとえばイスラム教徒だと、毎日の礼拝が宗教上の義務であったり、豚肉を食べてはいけなかったり、日本ではない文化があります。逆に、日本ならではの文化もあるでしょう。たとえば、残業の多さ、飲み会の多さ、印鑑文化などは、多くの外国人労働者が「日本ならでは」と指摘しています。このあたりについても、配慮が必要でしょう。

さらに「病気やケガをしたときの対応」も不安要素として挙がっています。これは支援計画の基準内にもありますが、生活オリエンテーションの中で、病院の選び方や行き方、健康保険証の使い方、病院での会話について、しっかりアドバイスをしておく必要がありそうです。また、就業時間以外でも、緊急時に相談できる人や窓口を設けておくと、安心して暮らせるでしょう。

まとめ

以上が2019年4月からスタートした入管法改正に絡み、外国人を雇用するうえで気をつけておくべきポイントでした。少子高齢化に歯止めがかからない今、外国人労働者に頼らざるを得ない業界は、今後も増えていくと考えられます。外国人が日本人と同じように活躍できる職場にするためには、「外国人を理由に待遇差を設けないこと」が第一。次いで「語学や生活面でのサポートを可能な限り行うこと」。そして、やはり何事もコミュニケーションが大事です。外国人が孤立しないよう、「交流のできる場や機会をつくっていくこと」が重要だと思います。

ライター:林 和歌子
大学卒業後、人材サービス大手で約12年間勤務。主に企業の採用活動に携わる。採用という入口だけではなく、その後の働き方にも領域を広げたいとの思いで独立。現在、採用支援を手がける傍ら、働き方に関するコンテンツなども執筆しています。京都大学文学部卒業(社会学専攻)。2015年、社会保険労務士の資格取得。
2019年05月09日