【社労士が解説】「テレワークうつ」が増加中!? テレワークの長期化によるメンタル不調を防ぐ方法とは?

新型コロナウイルス感染症の収束が見えない昨今、テレワークが長期化しています。もちろんテレワークには、「通勤の負担が軽減する」「子育てとの両立がしやすい」「自分の時間に余裕がもてる」などプラスの側面も数多くあります。一方で、職場を離れ自宅で仕事をするという大きな変化に適応できず、ストレスや孤独感を抱える人も増えていると聞きます。本記事では、テレワークによる社員のメンタルヘルス問題に対して、どう対応していくとよいのかを考えます。

職場から自宅へ、テレワークが生んだ心理的変化とは?

これまで私たちは、同じ場所に集合して仕事に取り組んできましたが、新型コロナウイルスによって「密集すべきではない」という制限が加わったことで、各自の自宅などで離散して働くことになりました。ここで考えられる大きな変化は、(1)チームメンバーとの物理的な距離が遠くなったこと、(2)仕事場として最適化された職場ではなく、生活の場である自宅での仕事を余儀なくされたこと、(3)通勤という移動がなくなったことです。他にもあろうかと思いますが、大きくはこの3つではないでしょうか。
それぞれの変化が生んだメリット・デメリットについて考えてみます。

変化(1)チームメンバーとの物理的な距離が遠くなった

仲間との物理的な距離の拡大については、メリットよりデメリットのほうが目立ちました。近くにいれば一声かければ済むところを、わざわざチャットやメール、あるいは電話をする必要が生まれ、相手の反応が分かりづらいという声があがっています。

また、そばにいれば感じとることのできた、わずかな表情の変化や疲れを把握しづらくなった。離れているため一体感を醸成しづらく、中には孤立感を感じる人も出てきたなどの弊害が生じています。サボっていると思われないか不安に感じている人もいるそうです。

もちろん、インターネットが普及し、ZOOMなどのテレビ会議システムが手軽に使えるようになった今、「物理的な距離があっても、心理的な距離はない」という意見にも納得できます。しかし、オンラインとオフラインでのコミュニケーションは、決して同じではないというのが私の考えです。

多くの大学では今でもオンライン授業が続いているそうですが、大学に通って同じ場で授業を受けるのと、オンラインのみで授業を受けるのとでは、そこから生まれる一体感や仲間意識に計り知れない差があるはずです。

変化(2)生活の場である自宅での仕事を余儀なくされた

生活の場への仕事の持ち込みについても、デメリットの方が目立っています。不動産情報サイト「SUUMO」の調査によると、20代社会人ひとり暮らしの平均的な住まいは首都圏の場合、「キッチン+7~8畳」です。ワンルーム・1Kが、全体の約70%を占めています。ファミリー層については調査結果がなかったものの、私の肌感覚だと3LDK~4LDKが大半だという印象です。

おそらく、テレワークを前提に、仕事場として独立した部屋をあらかじめ準備していた人は少数派でしょう。つまり、「仕事場」として最適化されていない場所で、仕事を余儀なくされています。狭いですし、自分の好きなものが手に届く範囲にあるため誘惑も多い。同居する家族の存在が、集中力をそぐこともあります。プリンターなどの備品も万全には揃っていません。

「テレワークだとオンオフの切り替えが難しい」という意見がでていますが、オフのために設計された空間で、オンの時間を過ごさねばならないので、当然といえば当然です。こうした環境下、仕事が思うように進まないことで苛立ちを感じたり、時には怒りが爆発してしまうことも少なからずあるようです。

変化(3)通勤という移動がなくなった

最後に通勤がなくなったことについて。これに関しては、メリットのほうが多そうです。とりわけ満員電車に疲弊していた都市圏通勤者にとってはラッキーなことでした。通勤時間を、仕事あるいはプライベートの時間に振り分けることができ、時間に余裕を持てるようになったという声があがっています。

一方で、通勤が運動になっていた人にとっては、運動不足が新たな課題として生じています。最近、「コロナ太り」という言葉をよく耳にしますが、これは移動がほぼゼロになったことによる体の変化だと言えます。この望まざる体の変化は、メンタルにも影響を与えている可能性もあります。

テレワーク化によって生まれた、メンタルに関するネガティブな変化をまとめると、以下のようになります。

  • ✓ 仕事仲間のメンタルの変化を把握しづらい
  • ✓ 一体感がなく、孤独を感じやすい
  • ✓ 仕事をサボっていると思われないか不安
  • ✓ 同居家族に仕事を邪魔されることへの苛立ち
  • ✓ オンオフの切り替えが難しい
  • ✓ 仕事を進めづらさからくる不満
  • ✓ 運動不足によるメンタル不調

メンタル不調を防ぐために、<会社>が気をつけること

次に、上記のような心理的な変化が生じていることを前提に、会社として取り組める対策を考えてみます。

物理的に近くにいないことが、不安や孤独感につながっています。テレワークを維持しながら、この不安や孤独感を払拭するには、月並みですが、まめにコミュニケーションを取ることがやはり有効です。チームメンバーがそろう時間に、オンラインミーティングを行ったり、1on1の頻度を高めたり、Slackなどを導入して雑談できる場所をつくったり、多すぎない人数でオンライン飲み会を行ったり…。さまざまな方法が考えられます。同時進行で、オンラインに抵抗を持つ人たちの苦手意識を払拭する取り組みも進めるべきです。オンラインコミュニティに溶け込めない人が、一層孤立化するリスクがあるからです。

また、生活の場で仕事を余儀なくされていることで、苛立ちが生じています。この課題に対して手立てがあるとしたら、自宅以外での就業を認めることです。現状だと、自宅や実家に制限したリモートのみ認めている企業が多いですが、「自宅のみ」からもう少し許容範囲を広げてみる。もちろん、情報漏洩リスクがあるので仕事の内容にもよりますが、自宅周辺のカフェやコワーキングスペースなどに広げてよいのではないでしょうか。とくにコワーキングスペースなら、複合機などを置いている場所も多く、整った設備の中で快適に働けます。

さらに、運動不足への対応ですが、これは会社として今、何かできるとしたら「声がけ」ぐらいでしょうか。スポーツジムと提携して、社員向けに割引価格で提供する手もありますが、三密回避を考慮すると、自宅内でのトレーニング、あるいは屋外でのジョギングなどで運動不足を解消するしかなさそうです。

最後に、ストレスチェック制度の積極活用をおすすめします。ストレスチェックについては、厚生労働省が導入マニュアルを作成しています。これを参考にすれば、質問票の作成方法や注意点が分かります。すでに導入済みの企業も多いと思いますが、今一度、制度が形骸化していないか確認して、しっかり機能するように見直していくとよいでしょう。

ストレスチェックの活用とあわせて、社員向けの相談窓口を整備することも有効です。人事や総務、あるいは産業医、保健師、連携している外部サービスなど、社内外の適切な場所に相談先を設け、それを社員に周知することで、ひとつの対策になります。また、カウンセラーを派遣してくれるサービスなどもあるので、活用してみてはどうでしょうか。相談先が第三者であるほうが、気軽に日頃のストレスを打ち明けられる可能性が高いです。

もし万が一社内で、テレワークによってストレスがたまり、メンタル不調に陥っている人を確認した場合は、産業医や心理カウンセラーと連携し、専門家の意見を聞きながら対応策を考えましょう

メンタル不調を防ぐために、<個人>が気をつけること

個人としてできることは、まずテレワークの長期化がメンタルを蝕む可能性があると知ること。その対象が自分かもしれないし、チームメンバーかもしれないと理解したうえで、日々の言動に気を配るといいのではないかと思います。

ここで紹介したいのが、日本赤十字社が2020年の3月にリリースした、「こころの健康」を保つヒントとなるサポートガイドです。サポートガイドによると、隔離された状況にある場合、人は将来について心配になったり、最悪の事態ばかり想像してしまったり、交流がないため孤独感を感じたり、あるいは必要以上に怒りを感じてイライラしてしまうそうです。

そうした場合には、「生活のリズムを保ち、規則正しい食事・運動を心がける」「自分自身の体調を客観的に落ち着いて評価する」「同僚、家族、友人などとコミュニケーションを絶やさないようにする」といった取り組みを行うことが効果的だと、サポートガイドには書かれています。これらが、メンタル不調を防ぐために、個人が工夫できることです。

もし万が一、周囲のメンバーにメンタル不調の気配を感じた場合は、「相手の感情の起伏(涙やイライラ)を受け止め、否定せずに話を聞いてあげる」「食事・睡眠・運動・身の回りの清潔など、通常の生活リズムを保つよう促す」「まめにコミュニケーションをとり続ける」といった対応を取ることが有効だと書かれています。ぜひ、日々の生活に活かしてみてください。

おわりに

オプションとしてのテレワークは、働きやすさを高めるという意味で、非常に有効な手段だと感じる一方、コロナ禍で進んだ半ば強制的なテレワークは、一部の人にとって負荷のかかるものでした。ウィズコロナが続く今、まだ安易に強制テレワークを解除できる状況ではありませんが、収束状況を見つつ、少しずつ元に戻していくほうがよいのかもしれません。

ただし、完全にテレワークを排除するのではなく、やはりオプションとしては残すべきです。私はテレワークを、インターネットの発展によって私たちが享受できるようになった働き方の進化だと捉えています。後戻りするのではなく、ネガティブな要素を払拭できる方法を考え、前進していくことが、あるべき姿なのだろうと思います。

ライター:林 和歌子
大学卒業後、人材サービス大手で約12年間勤務。主に企業の採用活動に携わる。採用という入口だけではなく、その後の働き方にも領域を広げたいとの思いで独立。現在、採用支援を手がける傍ら、働き方に関するコンテンツなども執筆しています。京都大学文学部卒業(社会学専攻)。2015年、社会保険労務士の資格取得。
2020年10月12日