【社労士が解説】“正規”と“非正規”の垣根は崩せるか?2020年4月にスタートした「同一労働同一賃金」で何が変わる?

2020年05月14日

新型コロナ旋風にかき消されてしまった感の否めない「働き方改革」。従来の働き方を見直し、次世代型の新しい働き方を実現していくための国を挙げての取り組みです。2018年に「働き方改革関連法」が成立し、2019年度より本格的に企業に導入されてきました。今年度の目玉は、「同一労働同一賃金」です。本年度は大企業のみでスタートし、2021年度には中小企業にも広げられます。本記事では、「同一労働同一賃金」の概要と導入手順についてご紹介します。

「同一労働同一賃金」についておさらい

働き方改革の3本柱といえば、「時間外労働の上限規制」「有給休暇の義務化」「同一労働同一賃金」ですが、導入に要する負担を考慮して、以下のように施行時期が異なっています。ご存知の通り、「有給休暇の義務化」については、すべての企業で2019年度から始まりました。今回のテーマである「同一労働同一賃金」は、今年度からのスタートです。

働き方改革施行スケジュール

働き方改革施行スケジュール

「同一労働同一賃金」とは、同じ仕事をするのであれば、同じ賃金を支払うべきという考え方に基づく新しいルールのことを言います。日本において増加の一途をたどる非正規雇用の待遇を是正する目的で導入されました。具体的な中身を見てみましょう。

「だれ」と「だれ」を同一にするのか?

日本における同一労働同一賃金は、欧米のようなひとつの職種に対して、企業横断的に同じ賃金水準にするものではありません。あくまで、ひとつの企業内において、同じ仕事をするなら、同じ賃金にするよう促すものです。中でも、「正規雇用」と「非正規雇用」の賃金・待遇差をなくしていこうとする考え方を、「同一労働同一賃金」と呼んでいます。

ここでいう正規雇用とは、期間の定めなく働くフルタイムの正社員のことを指し、いわゆる正社員です。一方、非正規雇用とは、契約社員(嘱託社員)、アルバイト・パート、派遣社員を指します。業務委託社員やフリーランスは、雇用されていないため、いずれにも属せず、本制度においては対象外です。

つまり、「同一労働同一賃金」とは、同じ社内で同じ仕事に従事する「正社員(正規雇用)」と「契約社員・派遣社員・アルバイト・パート(非正規雇用)」の狭間にある賃金差・待遇差を同水準にする制度、と考えれば誤解はないと思います。

「同一労働」ってどういうこと?

次に気になるのが、どこまでが「同一労働」の範疇なのか、という点でしょう。これに対し、判断軸は3つあります。(1)職務内容、(2)職務内容・配置の変更範囲、(3)その他の事情です。

それぞれについて簡単に説明すると、まず(1)については、「中核的な仕事の種類が何であるか」と「その責任の程度がどれほどか」で判断します。たとえば、同じ販売職であっても、中核的な仕事が店舗の運営管理で、店舗の売上に責任を追う「店長」と、中核的な仕事が接客で、店舗の売上に責任を追わない「販売スタッフ」とでは、職務内容が必ずしも同じであるとはいえません。

次に、(2)の職務内容・配置の変更範囲についてですが、これは「転勤の有無や職種異動の有無」と言い換えると分かりやすいでしょう。総合職で入社した人なら、全国転勤や異動が前提となっていることが多いです。一方、地域限定職として入社した人は、基本的には大きな異動はありません。このように、変更範囲の違いを考慮します。

最後の(3)ですが、その他の事情に含まれるのは、「仕事の成果や能力、経験」などです。同じ仕事に携わっていても、成果の度合いが明らかに異なったり、保有するスキルが格段に違う、あるいは経験や実績が明らかに違う場合などが、これに該当します。

職務内容
(仕事の種類と
責任の範囲)
職務内容・配置の
変更範囲
(転勤・異動の範囲)
その他の事情
(仕事の成果や能力、
経験など)

上記のような3つの判断軸を前提として、「均衡(きんこう)待遇」、「均等(きんとう)待遇」という考え方が提示されています。

均衡待遇は、「職務内容」「変更範囲」「その他の事情」の3つを鑑みて、合理的でバランスのとれた待遇にするよう促すものです。

一方、均等待遇は、「職務内容」と「変更の範囲」の2つが同じなのであれば、雇用形態がどうであれ、すべて同じ待遇(同一賃金)にしなければなりません。

「同一賃金」って賃金だけをそろえればいいの?

「同一賃金」と銘打っていますが、賃金だけではなく、あらゆる待遇を含めます。例をあげるなら、基本給、賞与、各種手当(住宅手当、通勤手当、家族手当など)、昇給、休日・休暇、教育制度、福利厚生、休憩室・食堂・更衣室の使用などです。

たとえばよく聞くのは、正社員にはボーナスがあるが、契約社員やアルバイト・パートにはない場合です。職務内容も変更の範囲も同じであれば、いずれかに揃えなければなりません。

また、新型コロナでリモートワークが普及しましたが、正社員はリモートワークOKで、契約社員はNGといった待遇差。これも認められません。それと、正社員にだけ社員食堂や休憩施設を使う権利があるといった福利厚生の差も、埋めていく必要があります。

このように、正規と非正規の狭間にある、あらゆる待遇差を是正していくことが、「同一労働同一賃金」のポイントです。

「同一労働同一賃金」は、どのように導入する?

「同一労働同一賃金」の原則は理解できました。では、改正された法律に抵触しないよう、既存制度を変えていくためには、どこから手をつけるとよいのでしょう。「厚生労働省が提示している手順書」がわかりやすいのでご紹介します。

大前提として、待遇差を設けていないのであれば、対応すべきことは何もありません。対応が発生するのは、正規雇用(正社員)と非正規雇用(契約社員、派遣社員、アルバイト・パートなど)の間に、不合理だと思われる待遇差がある場合だけです。

契約社員・アルバイト・パート(直接雇用の場合)

直接雇用の契約社員・アルバイト・パートについて紹介します。第一に、自社で設けている待遇の洗い出しをします。待遇とは先述の通りですが、以下のようなものが一般的です。

お金関係

基本給、賞与、各種手当(通勤手当、住宅手当、家族手当、資格手当、皆勤手当、役職手当など)、昇給、退職金 ほか

働き方関係

休日・休暇、特別休暇(リフレッシュ休暇、バースデイ休暇、慶弔休暇など)、時短勤務、リモートワーク ほか

社員教育関係

教育・研修制度、資格取得支援制度 ほか

福利厚生関係

社宅・社食・休憩室などの利用、保養所の利用 ほか

これらに待遇差がある場合、合理性の有無を考えます。たとえば、分かりやすい例だと通勤手当です。正社員には通勤手当があり、契約社員にはない場合、そこに合理性はよほどの理由がない限り認められません。両者ともに同じ場所に通勤しているからです。

一方で、住宅手当はどうでしょう。正社員には全国転勤があり、契約社員には全国転勤がないような場合、住宅手当を正社員にのみ支給することは合理性がないともいえません。なので、正社員には住宅手当を支給し、契約社員には支給しなくても問題がないこともあります。

このように、正規雇用と非正規雇用の間で待遇差がある場合、その理由を明確化し、理由を尋ねられたときに答えられる準備をしておきます。もし、不合理な待遇差が見つかれば、いずれかにそろえます。

派遣社員(間接雇用の場合)

間接雇用の派遣社員については、かなり扱いが異なります。まず、派遣会社と方針を決めます。選択肢は2つあり、派遣先の正社員との均等・均衡待遇とする「派遣先均等・均衡方式」か、労使協定を締結する「労使協定方式」です。派遣会社が、派遣先の正社員と同じ待遇にあわせることは難しいと考えられるので、後者の「労使協定方式」が主流になると見込まれます。

「労使協定方式」では、派遣会社が、同じ地域で働く同職種の正規労働者の平均的な賃金(以上)を支給する労使協定を、労働者代表と締結します。平均的な賃金の目安は、厚生労働省が定めることとなっており、すでに以下の通り局長通達が出ています。

なお、「教育訓練」と「給食施設、休憩室及び更衣室」の2つについては、いずれの方式を選択した場合でも、派遣先の待遇に合わせなければなりません。

派遣社員の「同一労働同一賃金」については、以下の記事で詳しく紹介しているので、気になる方はご確認ください。

違反した場合の罰則は?提訴された事例はある?

本件について、罰則は設けられていません。ただし、違法な状態で事業を継続すると、最悪の場合、労働者から訴えられる可能性があります。違法性が裁判で認められると、差分の賃金や手当を払わなければならないこともあります。

すでに決着のついている裁判例については以下の通りで、ほとんどのケースにおいて「不合理」との判決がでています。

最近では、日本郵便で働く非正社員約150名が、正社員との待遇差(手当など)に関して集団訴訟を起こしました。労働裁判としては異例の規模で、総額約2億3230万円の損害賠償を求めています。

また、日本IBMでも、定年後の再雇用契約社員が、定年前と同じ仕事をしているにも関わらず、契約社員になったことで、大幅な収入減があったとして、同社を提訴したというニュースもありました。

罰則がないからといって侮ると、大きな損害を被ることになるかもしれません。しっかりリスクヘッジをしながら、従業員の納得のいく制度へと変更していく必要があります。

まとめ

以上が、今年度から大企業でスタートした「同一労働同一賃金」についてでした。本制度が実現したいのは、「この国から非正規という言葉を一掃する」ことに他なりません。正規だとか非正規だとか、そういう分け方は名実ともに廃止して、仕事内容・職責に応じた待遇を用意する。この考え方に私も賛成です。

「同一労働同一賃金」が実現した先には、もしかしたら有期雇用社員だけの会社が生まれているかもしれないし、年齢給の一切ない実力主義の会社が生まれるかもしれません。便宜上、誕生した派遣という雇用形態が、なくなる可能性もあると感じています。「同一労働同一賃金」の施行を契機に、雇用形態や働き方をゼロから見直してみてはどうでしょうか。

ライター:林 和歌子
大学卒業後、人材サービス大手で約12年間勤務。主に企業の採用活動に携わる。採用という入口だけではなく、その後の働き方にも領域を広げたいとの思いで独立。現在、採用支援を手がける傍ら、働き方に関するコンテンツなども執筆しています。京都大学文学部卒業(社会学専攻)。2015年、社会保険労務士の資格取得。
2020年05月14日