私たちの働き方は、「こう変わる」――2016年リリース、これからの働き方を予言した報告書『働き方の未来2035』を紐解く

2020年07月01日

新型コロナによる緊急事態宣言により、「会社に行けない」という制約が生まれ、強制的に働き方の見直しが進んだここ数カ月。とくに目立った動きは、「テレワーク化」です。それにともない、「仕事との向き合い方」が変化しつつあります。これから私たちの働き方は、どう変わっていくのか――。

本記事では、2016年に厚生労働省が主体となって議論の場を設け、集まった有識者によって取りまとめられた働き方の予言書ともいえる『働き方の未来2035』について紹介します。議論に参加したのは、フューチャー株式会社 代表の金丸恭文氏(座長)、サイボウス株式会社代表の青野慶久氏、労働政策専門家の大内伸哉氏、国内のAI研究をリードする東京大学教授 松尾豊氏など、各分野の専門家の方々です。2016年、どんな働き方の未来が予測されていたのか、その中身を見てみましょう。

働き方にまつわる「9つの変化」

まず報告書の中では、働き方の変化を促す要因として次の2点が挙げられています。

1つ目が「少子高齢化」です。世界の人口は増加傾向にある一方で、日本の少子化には歯止めがかかっていません。その結果、2035年には高齢化率が約33%へと拡大すると言われています。

2つ目が「技術革新」です。近未来に確実に来るであろう変化として、「5Gに代表される処理速度・通信速度の高速化」「センサー活用によるIoT化」「VR・ARの実用化」「移動の効率化」「AIの実用化」などが挙げられています。中でも、インパクトの大きな技術革新が「AI」です。定型的な業務で、多少の間違いが許容されるような種類の業務は、AIに代替されると説明されています。しかし、だからといって、人間の仕事がなくなるわけではありません。

人間にしかできない新しいタイプの仕事、たとえば人間性に基づくような価値評価(おもしろいか、美しいか、おいしいか、善か悪かなど)が必要なものや、ヒューマンタッチが重視される付加価値の高い接客業など、あるいは企業の経営・企画に関わる仕事などが、人間の主な仕事として残るだろうと予測されています。こうした「少子高齢化」と「技術革新」が、次世代の新しい働き方を促す要素になるとのことです。

では、今から15年後の2035年、私たちはどのような働き方をしているのでしょうか。『働き方の未来2035』の中で言及されている、働き方にまつわる「9つの変化」について紐解きます。

(1)「時間」や「空間」にしばられずに働ける社会へ

従来の働き方だと、多少のフレックスタイム要素やテレワーク要素はあっても、「決められた時間」に「決められた場所」で働くことが一般的でした。しかし、インターネットやモバイル技術の発展、あるいは遠隔操作ロボットの進化などで、必ずしも同じ時間、同じ場所で働く必要がなくなりつつあります。これにより、2035年には各個人が、自分の意思で働く場所・働く時間を選べる時代が到来します。

(2)「金銭目的」だけではなく、より「多様な目的」意識をもった働き方へ

今後、働く目的がより一層、多様化します。これまでのように、「お金を得るため」だけではなく、「社会への貢献」「周囲との助け合い」「地域との共生」「自己の充実感」など、さまざまな目的が私たちの仕事の目的に加わります。誰かを働かせる、誰かに働かされるという関係ではなく、ともに支え合い、それぞれが自分の得意分野を発揮して、いきいきと活動ができる社会、どんな人でも活躍できる社会になります。つまり、働くことの定義・意義が大きく変わります。

(3)仕事は、ミッション・目的が明確な「プロジェクトの塊」へ

自立した自由な働き方が増えることで、企業もそれにあわせた組織へと変わります。企業は、「ミッションや目的が明確なプロジェクトの塊」のような存在になっていきます。多くの人はプロジェクト期間中だけ企業に所属し、終了すると別の企業へと向かいます。働く人が企業の内外を自在に移動する働き方が主流になります。結果として、企業組織の内外の垣根は曖昧になり、「無期契約の正社員」「有期契約の非正規社員」といった区分も意味を持たなくなります。

(4)働く人が「働くスタイル」を選択する時代へ

企業がプロジェクト型になると、複数の会社の複数のプロジェクトに、同時進行で関わる人も増えます。プロジェクトの種類も、「本業」「非営利なもの」「社会貢献を目指すもの」「自己実現が中心のもの」など、多層的なものになります。現時点においても、「営利組織」と「非営利組織」の両方に所属する人は存在しますが、一人の働く人が複数の営利組織・複数の非営利組織のプロジェクトに所属し、所属先が時の経過とともに変化することが、当たり前の世の中になります。

(5)働く人と企業の関係は、より「独立したもの」へ

働く人は仕事内容に応じて、1日のうちに働く時間を自由に選択するため、「フルタイム=正規」という考え方は崩れます。さらに、兼業・副業・複業が当たり前になり、多くの人が複数の仕事をこなし、収入を得ることになります。ひとつの会社に頼りきる必要もなくなるため、働く側の交渉力が高まり、不当な働き方や報酬を押し付けられる可能性も減ります。つまり、今のように「就社」するスタイルではなく、専門的な能力を身につけて専門的な仕事を行う、真の意味での「就職」が実現します。ただし、技術革新のスピードが速いことから、「転職」は柔軟に行える社会になっている必要があります。

(6)働き方の変化が、会社への「帰属意識」を弱める

これまで、とりわけ伝統的な大企業では、「国家」や「家族」のような役割を担ってきました。しかし、個人の働き方が変わることで、ひとつの企業への帰属意識は弱まります。それにともない、会社以外のコミュニティが重要性を増します。たとえば、「居住する地域のコミュニティ」や「SNSなどを使ったバーチャルのコミュニティ」などです。同じ企業で働くという帰属意識よりも、同じ職種・専門領域といった共通意識をもったコミュニティへの帰属意識のほうが強くなります。

(7)「地方」が見直され、地方都市が世界と直接つながる

技術革新により、働く場所の制約がなくなると、地方において豊かな自然を満喫しながら、都市と同等の仕事ができるようになります。1次・2次・3次というかつての産業の仕切りは意味をなさなくなり、多様なリソースが地方に流れ込み、6次産業化によって稼ぐ若者・女性・高齢者が増えます。また、地方の中核都市や小さな市区町村が、直接海外とつながり、地方の価値を直接海外に提供していく「グローカル」時代に突入します。

(8)介護や子育てが、働くための「制約」にならない社会へ

少子高齢化がさらに一層進む2035年、ますます人手不足は深刻化します。そうした中、AIやロボット化、あるいはアウトソーシングできるサービス(保育園・学童・介護施設など)の拡大によって、介護や子育て、家事などの負担から働く人は解放されることが重要です。一方で、働き方自体が時間や空間に縛られない柔軟なものに変わっていくことから、自ら介護・子育てを行いたい人が、相応の時間を割いたり、仕事を休むことが容易になります。

(9)性別・国籍・年齢・障がいなど、すべての「壁」を超える

時間や空間の制約を受けない多様な働き方が一般的になると、性別・人種・国境といった制約が急速に消滅します。それぞれの人が自分の能力や志向にあった働き方を選択し、それが社会と調和する時代になります。翻訳技術の進化により、多言語間のコミュニケーションハードルが低くなれば、仕事は容易に国境を超えます。VR技術により、地球の裏側にいても、あたかも隣で働いているような世界が到来します。そのため、日本独自の雇用慣行や制度を見直し、外国人人材も社会の一員として受け入れる仕組みを構築することが必要です。「世界で最も働きやすい場所」として日本が選ばれるために、世界最高水準の自由度を有した仕組みをつくっていかねばなりません。

これらを実現するために、制度・教育はどうあるべきか?

『働き方の未来2035』の中では、これらを実現するための制度についても言及されています。具体的には、「取引や契約を締結する際の情報提示のあり方」「何らかのトラブルが発生した際の、保障・保険的な機能のあり方」「リカレント教育のあり方」などを見直す必要があると指摘されています。

「取引や契約を締結する際の情報提示のあり方」については、働く人が適切に仕事を選択できるように適切な情報開示を、企業の自主的な取り組み、あるいは法的な義務化により促していくことが重要です。

また、「保障・保険的な機能のあり方」については、自立して働く人が失業した場合、より適切な形で再び社会復帰できるよう、何らかのセーフティーネットの構築を行うべきだと述べられています。加えて、社会保障は現在のような「家族を単位」とするものではなく「個人を単位」とするものに変え、男女共働きにつなげていくべきだとも指摘されています。

最後に、「リカレント教育のあり方」についてですが、変化のスピードが加速している昨今、仕事に必要なスキルも変化するため、生涯にわたってスキルアップを続けていけるような教育システムが重要だと述べられています。これまでは企業内にて人材育成が行われてきましたが、自立して働く人が増えることを踏まえると、個人に対して教育支援を行っていくような政府の後押しが求められます。

フリーランスに転向して思うこと

ここからは、私の実体験を踏まえた感想です。私は一般企業で13年働き、その後、独立して個人事業主となりました。今年でフリーランス3年目です。『働き方の未来2035』で触れられていた論点をふまえ、私個人の働き方の「Before」→「After」と、メリット・デメリットを以下で紹介します。

Before(企業で勤務していたとき)

  1. 働く場所/オフィスのみ
  2. 働く時間/9時~17時(通勤往復3時間) 拘束11時間
  3. 企業との関わり/1社のみと雇用契約(無期契約)
  4. 職業教育/会社負担で研修オプションから選択
  5. 社会保障/雇用・労災・健保・厚生年金に加入
  6. 働く目的/お金・充実感・社会への貢献
  7. 帰属意識の強いコミュニティ/勤務先の同僚が主

After(個人事業主になってから)

  1. 働く場所/家、あるいはコワーキングスペースやカフェなど
  2. 働く時間/基本的には、8時~15時、ほか仕事の進捗に応じて早朝など
  3. 企業との関わり/3~4社と業務委託契約(流動的)
  4. 職業教育/自己負担で興味のある研修などに参加
  5. 社会保障/国保・国民年金に自主加入
  6. 働く目的/お金・充実感・社会への貢献
  7. 帰属意識の強いコミュニティ/取引企業、同職種のフリーランス仲間など

「Before」→「After」へと働き方を変えてみての最大の効果は、やはり「(1)働く場所」と「(2)働く時間」の柔軟性を得たことで、生産性が高まったことです。

まず、「働く場所」でいうと、通勤時間をゼロにできたことで、働く時間を増やすことができました。同時に、子どもたちと関わる時間を増やせたことも大きなメリットでした。

また「働く時間」でいうと、私の場合は8時から15時がもっとも集中力の高まる時間。その時間に、一番エネルギーを使う仕事を配置するなど、時間の使い方がうまくなりました。結果として、生産性が高まったと思います。これらはプラスの変化です。

一方で、「(4)職業教育」は、どちらかというとデメリットもあったとの印象を持っています。たとえば、「何かを学びたい」と思ったときに、まねられる人・聞きに行ける人は近くにいませんし、研修も完全に自己負担での参加です。この意味では、すぐそばに多様な強みを持つ仲間がいる組織は、それだけで属する価値があると思います。とはいえ今の世の中、インターネット上にノウハウや知識は溢れかえっています。探そうと思えば、いくらでも探せる時代なので、学びについては「自分の気持ち次第」なのかもしれません。

「(5)社会保障」についても、どちらかというとマイナスの変化です。雇用・労災保険に加入しないため、「リスキーだな」と思うことは正直あります。ただ、労災のリスクはもともとゼロに近い仕事であることと、失業リスクは取引先を複数にすることで、いくぶんかは回避できます。ポイントは一社のみの取引にしないこと、できるだけ同業界ではない企業と契約することでしょうか。そうすることで、コロナのような危機的な状況により、ある業界の取引が完全にストップしたとしても、生き長らえることができます。

「(6)働く目的」に関しては、私の場合、前後での変化はほとんどありませんでした。でも、人によっては「自己実現要素が強まる」などの変化があるかもしれませんね。

最後に、「(7)帰属意識」ですが、確かに企業に対する帰属意識は弱まります。代わりに、同じような働き方・仕事をしている人とは、よくコミュニケーションをとるようになりました。悩みどころが同じなので、話が合うのです。なので、同じような環境にある人たちとつながっていき、新しいコミュニティが生まれ、そこに帰属意識を持つといった流れが、今後、色んなところで生まれるのだろうと思います。

まとめ

長くなりましたが、『働き方の未来2035』を紐解きつつ、私の実体験も絡めながらまとめてみました。誰かの参考になれば幸いです。独立性の高い働き方は、決してすべての職種で成り立つものではありません。しかし、適用できる職種もたくさんあることが、今回のコロナ禍で分かりました。働き方のオプションが増え、個々人が快適に働くことで生産性が高まる社会。これこそ、経済停滞から抜け出せる大きなファクターです。これからの働き方に興味がある人は、ぜひ『働き方の未来2035』の全文を読んでみてください。書籍 『AIANCE アライアンス―人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』(リード・ホフマン著)もお勧めです!

ライター:林 和歌子
大学卒業後、人材サービス大手で約12年間勤務。主に企業の採用活動に携わる。採用という入口だけではなく、その後の働き方にも領域を広げたいとの思いで独立。現在、採用支援を手がける傍ら、働き方に関するコンテンツなども執筆しています。京都大学文学部卒業(社会学専攻)。2015年、社会保険労務士の資格取得。
2020年07月01日