【社労士が解説】特別条項付き36協定の「良い事例」「悪い事例」をご紹介!

2019年08月27日
新36協定の改正後のポイントを徹底解説

「1日8時間、週40時間」を超えて時間外労働をさせる場合、必ず労使合意のもと36(さぶろく)協定を結び、労働基準監督署に届け出なければならない――これは、労働基準法で定められたルールです。この残業規制に関するルールに対して、2018年6月に成立した「働き方改革関連法」でメスが入りました。一体どう変わるのか。この記事では、法改正の中身についてご紹介します。

「時間外労働の上限規制」とは?法改正前後で残業規制はどう変わる?

今回の法改正で大きくメスが入った部分は大きく3つです。

一つ目は、36協定の上限時間が大臣告示から法律による上限になったこと。二つ目は、特別条項の締結条件が厳格化されたこと。三つ目は、これまで青天井と揶揄されてきた特別条項の時間外労働時間に、上限が設けられたことです。

以下の図が分かりやすいので、これをもとに詳しくご説明します。
新36協定改定後の残業規制

時間外労働の上限規制が「大臣告示」から「法律」へ

これまで、36協定締結時に目安としていた上限時間は、「法律」ではなく「大臣告示」で示されたものでした。厚生労働大臣が「これくらいを目安に設定してください」と示した基準にすぎなかったため、違反した場合でも行政指導が入るだけで、それ以上のペナルティはなかったのです。ところが、今回の法改正により法律となったことで、違反した場合に罰則規定が適用されることになりました。

法律で示された時間外労働の限度時間は従来通り「月45h、年360h」。大臣告示で示されていた「目安としての数値」が、そのまま「必ず守るべき数値」に変わります。

尚、「月45h、年360h」のルールは、「対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働制」を採用する場合、例外的に上限を「月42h、年320h」と読みかえる必要があります。

期間 原則 対象期間が3か月を超える
1年単位の変形労働時間制の労働者
1か月 45時間 42時間
1年間 360時間 320時間

また、後述の通り、特別条項付きの36協定を結ぶ場合にも上限時間が設けられました。こちらについても、上限時間をオーバーすると、企業に対してペナルティが科されます。

特別条項締結の条件が厳格化

ご存知の方が大半かとは思いますが、36協定は現状2階建ての構造となっています。

36協定の現状の図

まず土台として「1日8h、週40h」の大原則があります。現状、形ばかりになっていますが、日本で人を雇う場合、休憩を除いて働かせられる時間は1日8h、あるいは週40h以内でなければなりません。本来ならば、この時間を超えて働かせることは、労働基準法に違反するのです。

ただし、労使合意のもと36協定を結べば、「月45h、年360h」を限度に「1日8h、週40h」を超えて働かせることができます。これが36協定の1階部分です。

さらに、「月45h、年360h」におさめることさえも困難な場合は、2階部分の特別条項付き36協定を結び、限度時間を超えて残業が可能というのが現行のルールです。

これまで、特別条項付き36協定を締結する場合、「特別な事情(臨時的なものに限る)」があれば可能でした。しかし、今回の法改正により「通常予見することのできない業務量の大幅な増加等」が特別条項を締結するための条件となりました。

「通常予見することのできない」という言葉が加えられたことで、例えば「年末商戦で業務増大が見込まれる時」や「決算時期で業務が増大する時」など、予見できる理由での特別条項の締結は困難になる可能性があります。

あらかじめ、特定の時期に業務が増加することが分かっているのであれば、増員やアウトソースなどの対策を練っておくことができるはずだからです。

特別条項の青天井に蓋、上限時間の導入へ

これまで、特別条項付き36協定には上限時間がありませんでした。例えば、過労死ラインとされる月100hを上限とする36協定の締結も可能でした。これが、“青天井”と揶揄されてきた所以です。ところが、今回の法改正で青天井に蓋がされ、特別条項付き36協定を結ぶ場合でも、以下4つの上限ルールを必ず守らなければならないことになりました。

【特別条項付き36協定を結ぶ場合の上限ルール】
① 年720h以内
② 月100h未満(休日労働含む)
③ 2~6か月の各月平均がすべて月80h以内(休日労働含む)
④ 月45hを超えられるのは年6回まで

①~④それぞれについて補足します。

① 年720h以内

1階部分が年360h以内だったのに対して、特別条項を締結する場合は、シンプルに2倍。年720hまでという制限が設けられました。

② 月100h未満(休日労働含む)

1階部分が月45h以内だったのに対して、特別条項を締結する場合は、月100hが上限となりました。ただし「休日労働を含む」という点には注意が必要です。

実は、1階部分の「月45h、年360h」や「年720h以内」を計算する際、休日労働による労働時間は含む必要はありません。36協定では、「時間外労働」と「休日労働」を分けて考えるからです。実際、36協定のフォーマットも両者で記載欄が分かれています。

しかし、特別条項上限ルールの②と③については休日労働を分けて考えず、時間外労働と休日労働を加えた上で、上限となる時間数に達してはならないという取り決めになりました。

例えば、ひと月の時間外労働が70h、休日労働が35hである場合、合計が105hになりますね。これでは100hを超えるため、認められないということです。

尚、この場合の「休日労働」の考え方がやや複雑なので注意が必要です。ここでいう休日労働とは、法定休日(週1日の休み)を超えて働かせることを言います。土日を休みとした週休2日制の場合、一方だけ働いた場合は休日労働にはなりません。休日労働となるのは、もう一方も働かせて法定休日を超えた場合のみです。会社が決める所定休日ではなく、あくまで法定休日を超えた場合のみ、「休日労働」扱いとなります。

話を戻しますが、特別条項を締結した場合でも、時間外労働と休日労働を合計して、月100hを超えることはできません。これは、1か月100h以上の時間外労働が過労死ラインとされていることに由来する上限値です。

▪️時間外・休日労働時間と健康障害のリスクの関係
時間外・休日労働時間と健康障害のリスクの関係【参考】厚生労働省「過労死等防止啓発パンフレット」

③ 2~6か月の各月平均がすべて月80h以内(休日労働含む)

これは非常に分かりづらいのですが、各月を起算日として、2か月・3か月・4か月・5か月・6か月、どの平均を出しても月80h以内となるようにしなければならないということです。

例えば、4月は月95h、5月は月60h、6月は99hの時間外+休日労働をしたとしましょう。4・5月の2か月平均は77.5hですが、4・5・6月の平均は84.6hです。2か月平均は80h以内なのでOKですが、3か月平均は80hをオーバーするのでNGです。

尚、この計算にも、上記で説明した休日労働分も含めて考えます。これも過労死ラインの数値と整合がとられています。

④ 月45hを超えることができるのは、年6回まで

これは従来通りです。月45hを超えられるのは1年の半分、つまり6回だけです。常態的に月45hを超えることはできません。特別条項はあくまで、臨時的な業務の増加にのみ認められている例外措置なので、そもそも6回を超えるはずがないだろうという考えに基づく上限だと言えます。

特別条項付き36協定のOK事例とNG事例をご紹介

特別条項の上限規制についての概略は上記の通りですが、正直なところイメージが全然湧きませんね。そこで3つの事例をもとに、この条件で特別条項付き36協定が結べるか否かをご説明します。

再掲になりますが、守らなければならない条件は以下4つです。

① 年720h以内
② 月100h未満(休日労働含む)
③ 2~6か月の各月平均がすべて月80h以内(休日労働含む)
④ 月45hを超えられるのは年6回まで

事例 1

※上段(紺色の棒グラフ)=時間外労働時間/下段(水色の棒グラフ)=休日労働時間

◎時間外合計471h/休日労働含む総合計509h/平均42.5h/45h超 2回

【解説】
まず年単位で見ましょう。年間合計471hで、720hを超えないので問題ありません。次に月単位です。月で見る場合は、休日労働も含めなければなりません。上記だと4月が102hになってしまうのでアウトです。45h超の回数は2回だけなので、この点ではOK。平均は計算するまでもなく、80hを超えることはありませんね。

現状のままだとNG。4月を修正すればOKです。

事例 2

※上段(紺色の棒グラフ)=時間外労働時間/下段(水色の棒グラフ)=休日労働時間

◎時間外合計591h/休日労働含む総合計612h/平均51h/45h超 6回

【解説】
年単位では、591hで720hを超えないので問題ありません。月単位でも、休日労働を含めて100hを超える月はありません。45h超の回数もギリギリ6回なのでセーフです。平均はどうでしょうか。11月・12月が怪しいですね。計算してみましょう。11月は休日労働含めて78h、12月は89hです。平均すると83.5hとなります。2~6か月平均で80hを超えてはいけないルールに抵触するのでNGです。

この事例も現状のままだとNG。11月か12月を修正すればOKです。

事例 3

※上段(紺色の棒グラフ)=時間外労働時間/下段(水色の棒グラフ)=休日労働時間

◎時間外合計720h/休日労働含む総合計960h/平均80h/45h超 6回

解説

総労働時間で見ると960hと、事例1・2よりも多いのですが、結論から言うとこのケースで特別条項付きの36協定を締結することは「可能」です。詳しく見てみましょう。

まず年単位では、年720h以内なのでギリギリセーフです。月単位では、単月100hを超える月はありませんし、時間外労働が45hを超える回数も6回でセーフです。では、平均はどうでしょうか。すべての月において80hなので、もちろん平均も80hですね。つまり、平均も80h以内におさまります。

極端な例ではありますが、この事例だと実は特別条項が締結できてしまいます。ただし、休日労働が毎月のように発生するため、もちろん推奨はしません。このようなケースが許容されるという例として、ご理解ください。

以上が3つの事例でした。

ポイントとしては、45hを超える月を6回以内に設定しつつ、80hを超える月は2回までにおさめること。この点に留意すると、うまく設計できるはずです。

「時間外労働の上限規制」違反した場合の罰則は?

上記のルールに違反して、時間外労働をさせた場合は、「30万円以下の罰金」あるいは「6カ月以下の懲役」が科せられます。

1社につき30万円だと決して高い額ではありませんが、企業のブランドイメージを著しく損ねるリスクがあります。コンプライアンスの観点でも、安易に考えず遵守していく必要があるでしょう。

「時間外労働の上限規制」はいつから?適用されない業職種はある?

施行は、大企業の場合、2019年4月1日から、中小企業の場合は1年遅れで、2020年4月1日からです。

大企業と中小企業については、業種・資本金(出資の総額)・社員数の3つの軸で判別します。以下の図から自社が大企業に該当するのか、中小企業に該当するのかを確認してみてください。

大企業 or 中小企業
製造・建設・運輸・その他の業種 資本金(出資の総額) 3億円 資本金・社員数について、
●いずれか(or)が左記の数字「以下」だと中小企業
●いずれも(and)が左記の数字「超」なら大企業
社員数(常時雇用) 300人
卸業 資本金(出資の総額) 1億円
社員数(常時雇用) 100人
サービス業 資本金(出資の総額) 5,000万円
社員数(常時雇用) 100人
小売業 資本金(出資の総額) 5,000万円
社員数(常時雇用) 50人


尚、2019年4月1日(中小企業の場合は2020年4月1日)をまたいだ期間に締結された36協定については、協定の初日から1年間は既存の協定のままでOKです。2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)以降に新しく締結するものから、順次新しいルールに適用していく流れです。

また、以下の業種・職種については、現状を鑑み「5年間の猶予」、つまり2024年4月1日以降に適用される予定となっています。

事業・業務 猶予期間中の取扱い
(2024年3月31日まで)
猶予期間後の取扱い
(2024年4月1日以降)
建設事業 上限規制は適用されません。 ●災害の復旧・復興の事業を除き、上限規制がすべて適用されます。
●災害の復旧・復興の事業に関しては、時間外労働と休日労働の合計について、
月100時間未満
2~6か月平均80時間以内
とする規制は適用されません。
自動車運転の業務 ●特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働の上限が年960時間となります。
●時間外労働と休日労働の合計について、
月100時間未満
2~6か月平均80時間以内
とする規制は適用されません。
●時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6か月までとする規制は適用されません。
医師 具体的な上限時間は今後、省令で定めることとされています。
鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業 時間外労働と休日労働の合計について、
✓月100時間未満
✓2〜6か月平均80時間以内
とする規制は適用されません。
上限規制がすべて適用されます。

猶予後の取り扱い猶予業職種には、長時間労働が蔓延していると指摘されている「建設」「ドライバー」「医師」が含まれています。これらの業職種は、確かにすぐに是正していくのは難しいのかもしれません。ただ、5年の猶予に安堵するのは禁物です。別の見方をすれば、他業界がこの5年で働き方を進化させていく中で、猶予された業界や職種は5年の遅れをとるということ。

ただでさえ、建設業界や運送業界はハードワークという側面から若手の流入が減っています。5年の猶予に安穏とするのではなく、思い切って働き方を変えていく必要があると感じます。でなければ、ハードワーク→採用困難→さらにハードワークの負の連鎖を断ち切ることはできないでしょう。

尚、「新技術・新商品等の研究開発業務」は、猶予なく適用除外です。また、高度プロフェッショナル制度の対象者や、裁量労働制で働く人たちについても同様に対象外です。

まとめ

以上が「時間外労働の上限規制」のあらましでした。法改正により、特別条項付き36協定は、締結すること自体が難しくなりそうです。また、将来的には、特別条項自体が廃止される可能性すらあると言われています。

長時間労働が常態化している企業においては、まずは時間外労働を「月45h、年360h」以内におさめることが急務。長くても1日の実働を10hまでにとどめられるよう、働き方を変革していく必要があります。

ライター:林 和歌子
大学卒業後、人材サービス大手で約12年間勤務。主に企業の採用活動に携わる。採用という入口だけではなく、その後の働き方にも領域を広げたいとの思いで独立。現在、採用支援を手がける傍ら、働き方に関するコンテンツなども執筆しています。京都大学文学部卒業(社会学専攻)。2015年、社会保険労務士の資格取得。
2019年08月27日