【社労士が解説】「同一労働同一賃金」企業の対応策を事例とともに紹介!

2019年02月12日

大企業は2020年4月1日、中小企業は2021年4月1日からから始まる、正規と非正規間の待遇差を解消する「同一労働同一賃金」。正規と非正規が混在する職場にとっては、大きな変革を迫られる法改正です。この記事では、すでにこの問題に取り組み、「同一労働同一賃金」を実現している企業の事例についてご紹介します。これから対応策を練っていくにあたり、ぜひ参考にしてください。

【参考】同一労働同一賃金の徹底解説はこちら!

同一労働同一賃金を導入した企業の事例

同一労働同一賃金に関する問題は、本格的に企業の中で改革が進むのはこれからという印象ですが、すでに法改正が決まる以前からこの問題に取り組み、同一労働同一賃金を実現している企業があります。以下の3つの事例は、いずれもこれまでの慣行を断ち切り、新しい制度の導入に踏み切った事例です。一体どんな制度改革を行ったのでしょうか。具体的に見てみましょう。

【事例1】3種類あった雇用形態を正社員に一本化。待遇差を解消。

●Before
もともと、基幹職である「総合職社員」、営業や会計などの専門業務に携わる「専門職社員」、総合職の業務支援やコールセンターを担当する「メイト社員」の3つの雇用形態で構成。

このうちメイト社員は非正規雇用で、昇格の仕方が他の2つと異なっていた。また、メイト社員の中に優秀な人がいても、業務を変更するためには試験を受験する必要があった。

●After
3つあった「総合職社員」「専門職社員」「メイト社員」を「正社員」に統一すると同時に、待遇やキャリアパス制度も統一。新しいキャリアパス制度では、「業務内容」や「役割」に基づいた「役割等級制度」を導入。人事評価制度も一新した。

1つ目の例は、金融業界からです。
金融業界といえば、総合職と一般職で明確にコースが分けられ、一般職には女性が多く在籍しているというのが一般的でした。この企業についても同様で、総合職・専門職と、メイト社員に分かれ、メイト社員については有期雇用で賞与なしの時給制、確定拠出年金などの福利厚生も手薄でした。

それを正社員に一本化する形で3つの雇用形態を統一。これまで異なっていたあらゆる待遇を同じ水準へと変更し、雇用形態による待遇差を解消したそうです。

●BEFORE

雇用区分 雇用形態 給与形態 職務内容 昇格上限
総合職社員 無期 月給+賞与 無限定 なし
専門職社員 無期 月給+賞与 限定 あり
メイト社員 有期 時給 限定 あり

●AFTER

雇用区分 雇用形態 給与形態 職務内容 昇格上限
正社員 無期 月給+賞与 無限定 なし

すべての社員に対して「現在の処遇以上」を基本方針として移行を進めてきたため、大きな混乱はなかったとのこと。

全員が現在の処遇以上になると、一時的に人件費が膨らむことが懸念されますが、その点については、人件費単体で判断するのではなく、企業収益も含めた会社全体で判断。将来への投資として、大きな変革を断行したとのことでした。

【参考】厚生労働省「株式会社クレディセゾン」

【事例2】 有期雇用を廃止し、同一労働同一賃金を実現。労働時間は3選択制。

●Before
無期雇用の正社員と、6カ月毎に契約を更新するパートタイマーが混在。正社員とパートタイマーの間で一部待遇差があり。また、「パートだからここまででOK」といった仕事に対する期待値の差も自然と発生している状態。

●After
正社員・パートタイマーの区別をなくし、全員を「コワーカー」という呼称に変え、待遇をそろえた。

【紐づく5つの施策】
(1)有期契約を廃止し、全員を無期契約(定年65歳)に変更
(2)同じ職務であれば全てのコワーカーが同じ賃金になるよう変更
(3)休暇や個人年金制度など待遇差があったものは、すべて同じに変更
(4)労働時間の長さに関係なく、すべての人に等しく期待するよう教育を実施
(5)労働時間を「週39時間」「週25時間~38 時間」「週12~24時間」からの選択制とし、ライフステージに合わせて変更できる制度へ

 
2つ目の例は、小売業界からです。
この事例も雇用形態の区分をとっぱらい、全員を一律正社員へと転換した例です。

1つ目の事例と異なる点は、短時間で働きたい人もいることに配慮し、労働時間を3つからの選択制にしたこと。たとえば、子どもが小学校を卒業するまでは、「週12~24時間」を選び、中学校入学と同時に「週39時間」のフルタイムに戻すなど、ライフステージに合わせて選択できる点がポイントです。

小売業で働くパートタイマーの場合、育児や介護などの理由から、通常より短い時間で働きたい人も多いと推測します。そういった層への配慮なく、正社員への一本化を行うと、勤務時間の側面から大量離職につながるリスクもあるでしょう。この事例では、正社員への一本化はするが、勤務時間を選べる制度としたことで、すべての社員の利益を損ねない形での改革に成功しています。

改革による効果ですが、元パートタイマーのモチベーション向上につながったとのこと。さらに、新規採用面でも人が集まりやすくなったらしく、一時的な人件費の膨らみはあったものの、総合的に判断するとプラスになったということでした。

【参考】厚生労働省「イケアジャパン株式会社」

【事例3】全員「自由出勤制度」×「時給制」へ。同じ土俵にした上でパートを正社員化。

■ Before
固定給(月給)の正社員と時給制のパート従業員が混在。仕事のできるパート従業員に、責任ある仕事や難しい仕事を依頼すると「時給に見合わない」という不満に。一方、正社員からはどんなに忙しくても仕事を置いて帰ってしまうパート従業員への不満の声も。業務内容は大きくは変わらないものの、働き方と給与体系が異なるため、正社員とパート従業員の間で軋轢が発生している状態。

■ After
正社員・アルバイト両者に「自由出勤制度」を導入し、8:00~18:00の間であれば、いつ来て仕事をしてもいい制度(自由出勤制度)へ変更。同時に、正社員の固定給(月給)を改め、時給制に変更。

仕事内容については、正社員・アルバイトを含む全社員を対象としたアンケートをもとに仕事を点数化し、可視化。点数をもとに時給を決定する仕組みに変更し、同一労働同一賃金を実現した。これらの制度を整えたうえで、アルバイトを無期契約の正社員へ転換。

3つ目の例は、アウトソーシング業界からです。
この事例が興味深い点は2つあります。全員を「自由出勤」にしたことと、「時給」にしたことです。

なぜ「自由出勤」にする必要があったのか。これは、時間の制約がある中で働いているパート従業員に合わせたのでしょう。時間の長短で判断する考え方をとっぱらうために、正社員も何時間働いても構わないという大胆な改革を行いました。

そうすると必然的に、月給ではなく時給で計算する必要が生まれ、「ならば全員時給制でいこう」となり、実際にそれも敢行しました。

正社員とパート社員で成り立っている企業の場合、たいてい両者には給与単位の違いがあります。かたや月給、かたや時給、2つをどう同じ土俵にするのか――これは結構難しい問題なのではないでしょうか。

このケースのように、思い切って全員を時給制にすると、シンプルに考えられるのかもしれません。ただ、時給制になることで、正社員からの不満が上がる点は懸念されます。この事例の場合、従来の月給に「5%を上乗せ」したうえで、労働時間で割り戻し、新しい時給を決めることで、うまくまとまったとのこと。「正社員にしわ寄せがいった」という見え方にならないよう、工夫をしている点もポイントです。

【参考】労働政策研究・研修機構「同一労働同一賃金の実現に向けた先進的な取り組み」

以上が同一労働同一賃金の実現に向けて、すでに取り組みを進めている企業の事例でした。

やってしまいがちな失敗

上記の事例はすべて非正規雇用の待遇を引き上げることで、同一労働同一賃金を実現した事例です。しかし、必ずしも非正規雇用の待遇を上げなくても、正規の待遇を下げれば同一労働同一賃金が実現するのでは、という声も聞こえてきそうです。

たとえばこんな例です。

正規と非正規の賃金水準を同じにするため、正規の賃金を下げ、非正規のレベルに合わせる。待遇も低い方にそろえる。

この正規の待遇を下げる対応は、「望ましくない」との指針が厚生労働省より示されているので、よほどの理由がない限りやってはいけません。そもそも、労働者の合意なく、待遇を引き下げることは、「労働条件の不利益変更」となるので、安易にはできません。対象となる人たち(この場合、正規社員)に丁寧に説明し、合意を得てから行う必要があります。

では、こんな例はどうでしょう。

現状、正規・非正規が同じ仕事をしているが、正規は賃金水準が高かったり、賞与があるなどの歴然とした待遇差がある。待遇差の是正は困難なので、待遇はそのままで、正規の仕事量を増やし、なおかつ責任を重くする。

これは、法律上で禁止されていることではありません。ただ、私の経験したことでもありますが、正規のモチベーションが下がります。すでに長時間労働が当たり前な中に、プラスして同一労働同一賃金を名目に仕事が増えるわけなので、「同一労働同一賃金が目指す世界ってなんだ?」という疑念すら覚えました。

さらに、こんな例も考えられそうです。

現状、正規・非正規が同じ仕事をしているが、正規は賃金水準が高かったり、賞与があるなどの歴然とした待遇差がある。待遇差の是正は困難なので、待遇はそのままで、非正規の仕事の量を減らし、責任も軽くする。

これも、法律上で禁止されているわけではありませんが、非正規のモチベーションが下がる可能性があります。仕事に熱心で向上心も高い非正規の人だと、退職という決断をするリスクもあります。結果としては、同一労働同一賃金の実現ができるわけですが、ポジティブな変更ではないので、社員全体の士気低下につながるおそれもあります。

こう考えると、やはり非正規の待遇を上げるという方針で、同一労働同一賃金を実現すべきです。

以下は私の個人的な経験にもとづく話です。私の働いていた職場では、正規と非正規が約半数ずつ在籍し、ほぼ同じ仕事をしていました。仕事内容は変わらないものの、正規と非正規の間には、ボーナスの有・無というわりと大きな待遇差がありました。

ボーナス支給日の前後には、正規メンバーはボーナスの使い道で盛り上がる一方、非正規メンバーの間には冷たい空気が流れます。普段は同じ方向を向いて、同じ仕事をしているにも関わらず、この瞬間の隔たりといったら、なんとも言えないものでした。

社内で正規・非正規が混ざる職場において、目に見える待遇差があることは、その環境で働く身としても辛いものがあります。そういう待遇差に気をもむことなく、一緒に全員が前を向いて取り組める組織こそ、働きやすい環境なのではないでしょうか。

まとめ

以上、同一労働同一賃金に向けた取り組みの参考例としてご紹介しました。もちろん、「全員正社員化」だけが対応策ではありません。合理的に説明できる「仕事の差」、「責任の程度の差」、「配置転換の違い」が、正規と非正規の間にあるのなら、待遇差は許容されます。「このケースはどうなの?」という疑問があれば、お気軽にお問い合わせください。

ライター:林 和歌子
大学卒業後、人材サービス大手で約12年間勤務。主に企業の採用活動に携わる。採用という入口だけではなく、その後の働き方にも領域を広げたいとの思いで独立。現在、採用支援を手がける傍ら、働き方に関するコンテンツなども執筆しています。京都大学文学部卒業(社会学専攻)。2015年、社会保険労務士の資格取得。

2019年02月12日