最低賃金制度とは
最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度です(厚生労働省のHPより)。
中央最低賃金審議会が、毎年上げ幅の目安を決定し、この目安に基づいて、都道府県の審議会によって最低賃金が決められます。
時給換算で発表されていますので、アルバイトやパートなど、時給で賃金が支給される方のみが対象だと思っている経営者の方がいますが、賃金換算の方法を問わず、全ての労働者が対象となっています。
ここでは、賃金を支給する経営者側の方が押さえておかなければならないポイントについてわかりやすく解説していきます。
雇用されている側の方も知っておいた方が良い内容ばかりですので、ぜひ参考にしてください。
歴史
1959年に最低賃金法が制定されましたが、使用者(企業)側の強い反発を受けたため、「業者間協定」による最低賃金を容認するという内容になりました。
これでは企業の都合が優先されてしまいますので、本来の目的であった労働者の視点に立った最低賃金制を制定することは実現しませんでした。
その後、1968年に最低賃金法が改正され、中立の立場にある審議会が妥当な最低賃金を提示する「審議会方式」がようやく導入されることになりました。
さらに1976年には、まず中央最低賃金審議会が経済指標等を考慮して目安となる最低賃金額を決定し、それを踏まえて都道府県の地方最低賃金審議会に提示し、設定するという目安制度が導入され、現在も変更なく続けられています。
二種類存在する最低賃金
地域別最低賃金
それぞれの都道府県において定められた最低賃金のことを指します。
産業や職種にかかわりなく、そのエリアの全ての労働者に適用されます。
特定(産業別)最低賃金
特定の産業に対して定められた最低賃金のことを指します。
地域別最低賃金よりも高い水準の最低賃金を定めたほうがよい職種・業種がありますので、厚生労働省は関係労使の申し出に基づいて特定最低賃金の調査や審議をおこなっています。
具体的には、特定最低賃金は製造業や鉄鋼業、特定の商品を販売する小売業などの業種で定められており、地域別最低賃金よりも高い水準になっていることがほとんどです。
月給者や日給者などの計算方法
最低賃金は時給換算で発表されるため、日給や月給制で賃金を支給している場合には、それぞれを時給換算して、最低賃金を上回っているかどうかを確認する必要があります。
労働者に支払われる賃金には、残業をした際に支給される時間外割増賃金や休日割増賃金、深夜割増賃金、賞与(ボーナス)、通勤手当や結婚手当、扶養手当といった各種手当などがありますが、これらは最低賃金を計算するときには対象外とされます。
最低賃金の計算対象となるのは、労働者に対して1カ月ごとに支払われる基本的な賃金(基本給や毎月支払われる固定の手当)のみであり、年間の総支給額ではありませんので注意してください。
※厚生労働省のHPより
(1)時間給制の場合
最低賃金は時間給で発表されるため、単純に比較することになります。
(2)日給制の場合
日給を労働時間で割り、時間給相当に計算してから比較することになります。
ただし、日額が定められている特定(産業別)最低賃金が適用される場合がありますので、その場合は単純に比較することとなります。
(3)月給制(所定内給与)の場合
月給(所定内給与)を一箇月の平均所定労働時間で割り、時間給相当に計算してから比較することになります。
月給(所定内給与)÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
平均所定労働時間を算出するには、年間休日数が120日で1日8時間勤務の場合は、下記のような計算式となります。
令和4年度地域別最低賃金額は、東京都が1,072円、神奈川県が1,071円ですので最低賃金を下回ってしまいます。
それ以外の地域は1,062.5円を下回っていますので違反にはなりません。
例えば愛知県は986円ですので、月給換算にすると157,760円となります。
(4)出来高払制その他の請負制によって定められた賃金の場合
出来高払制その他の請負制によって支給された賃金の総額を、当該賃金計算期間に出来高払制その他の請負制によって労働した総労働時間数で割り、時間当たりの金額に換算して最低賃金額(時間額)と比較します。
(5)上記(1)、(2)、(3)、(4)を組み合わせた場合
例えば、基本給が日給制で、職能手当などが月給制で支払われている場合などは、それぞれ上記(2)、(3)の式により時間額に換算し、それを合計したものと最低賃金額(時間額)を比較します。
適用除外について
最低賃金は、原則としてすべての労働者とその使用者に適用されますが、最低賃金を一律に適用すると、かえって雇用機会を狭める可能性がある労働者については、適用除外が認められます。
その場合は、使用者が都道府県労働局長の許可を個別に受けることが条件と定められていましたが、平成20年7月に最低賃金の減額特例が新設され、使用者は事業所の所在地を管轄する労働基準監督署に最低賃金の減額の特例許可申請書を提出する運用方法になりました。
減額率は、減額対象労働者の職務内容、職務の成果、労働能力、経験などを勘案して定めることになりますが、一般の労働者と同じく、労働者の生計費、世間相場などの類似の労働者の賃金そして企業の生産性を考慮して決めることとなります。
最低賃金制度に抵触した運用をする場合のリスク
仮に悪意占有ではなかったとしても、最低賃金制度に抵触した運用を行っている企業は、様々なリスクを負うことになりますので、最低賃金が改定される10月には確認を怠らないように心がけてください。
例え従業員から最低賃金制度に抵触していると指摘されなかったとしても、労働基準監督署から是正勧告を受ける場合もあります。
ここでは、実際に企業が負うリスクについて解説いたします。
罰則を課せられるリスク
最低労働賃金を下回っていたからと言って、いきなり罰金を課せられることはありませんが、労働基準監督署から是正勧告を受けても差額を支払わないなどといった悪質な場合には、罰則として50万円以下の罰金(地域別最低賃金に違反)または30万円以下の罰金(特定最低賃金に違反)に処されます。
訴訟リスク
従業員から最低賃金との差額の支払いを求められた場合、過去2年分を支払わなければならなくなる可能性があります。
尚、この「最大で過去2年分」というのは、労働基準法で賃金請求権の消滅時効時間とされていた2年からきているものなのですが、2020年4月1日施行の改正労働基準法では、賃金請求権の消滅時効期間は2年から5年(当面は3年)に変更されているため、2022年4月1日以降は過去2年分以上の支払いをしなければならなくなりますので、更に注意が必要です。
支払うことができなければ、訴訟にまで発展する可能性が高く、訴訟にかかる費用負担も強いられることになってしまいます。
ブラックリストにのるリスク
厚生労働省労働基準監督署は、労働基準関係法令に違反した事案を公表しています。
すべての事例が公表されるわけではありませんが、コンプライアンス遵守が重視視される社会において、最低賃金に違反していることが発覚すれば、従業員の採用は困難になりますし、取引先からの信用を失い、取引や契約を破棄される可能性があります。
まとめ:人手不足倒産を防ぐためにも
日本の企業において、深刻な問題として挙げられているのが「人手不足」と「生産効率の低さ」です。
万が一、最低賃金制度を守っていては会社の経営が維持できない企業があれば、早急に生産効率の向上についての施策を遂行しなければなりません。
日本では、さまざまな業界で人手不足問題が深刻化しており、倒産する企業が増加傾向にありますので、賃金が低いままの状態であれば、やがて従業員の確保が困難となり、人手不足倒産が起こる可能性があります。
最低賃金の維持は、最低限企業が行うべき努力目標として、強く意識しなければならない指標だと言えるのではないでしょうか。