実は、“子育て中ではない”社員の支援策にもなる――「ベビーシッター補助制度」を導入するメリットとは?

2020年09月03日

共働きが増え、子育て中の社員と、そうでない社員がまざってチームをつくることも増えてきた昨今。マタハラ・パタハラという言葉が浸透し、「ハラスメントになってはいけない」との考えから、「子育て中の社員に気をつかいすぎる」「業務分担に苦慮している」という人も増えているのではないでしょうか。一方で、このような周りの社員へのしわ寄せを指す言葉として、「逆マタハラ」という言葉まで使われ始めています。

こうした状況を打開する手だてとして、今回紹介したいのがベビーシッター補助制度です。企業がより一層、踏み込んだ子育て支援策を講じることで、「子育て中の社員」と「そうでない社員」の軋轢を防ぎます。実は、ベビーシッター補助制度が、周囲のメンバーをサポートすることにもつながるのです。本記事では、ベビーシッター補助制度の導入を検討する企業に向けて、導入のポイントや活用できる国のサポート制度について紹介します。

ベビーシッター補助制度を導入するメリット

テレビCMなどでは、まだまだ専業主婦世帯を彷彿とさせるものが多いですが、実際は共働き世帯が専業主婦世帯の倍以上にのぼります。労働政策研究・研修機構が毎年実施している調査によると、共働き世帯は年々増加傾向にあります。この傾向は、今後も間違いなく続くでしょう。したがって、企業が雇用管理を行うとき、子育て中の社員は共働きであることを前提にしなければなりません。

そして、共働きの子育て世帯が、両立においてもっとも苦労する時期は、子どもが保育園や保育室などに通い始めてからの数年です。年齢にして3歳くらいまで。この頃は、子どもが病気にかかりやすく、急に保育園から呼び出されたり、仕事で外せない日に急遽、お熱で預けられなくなったり…。この数年のハードな両立に疲れ果てて、辞めてしまう人も多いと聞きます。

この大変な時期を支えてくれるのが、ベビーシッターです。100%ベビーシッターを利用する家庭はごく稀ですが、保育園や保育室と併用できるなら、心強いセーフティーネットになります。たとえば、保育園・保育室が空いていない時間や、子どもが病気で預かってもらえない時にベビーシッターを活用できれば、いざという時に救われる人もたくさんいるでしょう。

ベビーシッター補助制度は、企業がベビーシッターの利用料を一部補助して、子育て世代をサポートする取り組みです。子育てにもっとも苦労する時期を支え、若い世代の離職の軽減につなげます。採用シーンでも、子育て支援に力を入れていることをアピールする材料になります。

※なお、ベビーシッター利用料を、福利厚生費(非課税)として扱える可能性もあります。ただし、福利厚生費として計上するためには、一定の要件を満たす必要があるため、顧問弁護士にご相談ください。

ベビーシッター補助制度の「導入企業」と「導入例」

では、どのような企業が、どのようなベビーシッター補助制度を設けているのでしょうか。いくつか例を見てみます。

東レ株式会社

委託先会社が発行する育児クーポンを利用することで、割引価格でベビーシッターを利用することが可能。子どもの年齢制限はなし。

サントリー株式会社

家庭内での乳幼児、小学校低学年の児童の保育や保育所等への送迎時に利用可。補助額は1日あたり1700円。

株式会社ZOZOテクノロジーズ

ベビーシッターのサービスを利用した場合に一部または全額の費用を補助。子供が病気の時の病児保育や送り迎え、リモートワークで業務に専念したい時、業務での外出時などの利用が可。乳幼児または小学3年生までの児童が対象。

株式会社ノバレーゼ

土・日・祝日に勤務する社員のベビーシッター利用料を、会社が全額負担。小学生以下の子どもが対象。

制度設計にあたり、検討すること

上記の事例を参考に、ベビーシッター補助制度を導入する前に、検討すべきポイントを以下で紹介します。

(1)何歳までの子どもを対象とするか?

東レさんのように対象年齢を定めていない例もありますが、たいていは子どもだけでの留守番や登下校(園)が難しい小学生以下を対象としています。常識的に考えて、中学生にベビーシッターは不要なので、「小学校低学年(3年生まで)」とするか「小学校卒業まで(6年生まで)」とするか、このあたりが現実的なラインではないでしょうか。

(2)利用料の全額か一部か?

全額会社負担にしてしまうと、マックスでいくらぐらいの請求が発生するのか読めません。必要以上に使われるリスクもあります。ですから、補助する額の上限額を設けるか、あるいは利用料金の一部補助(50%や70%など)にとどめるのが無難です。

(3)利用シーンは?

業務時間外のプライベート利用も可とするのか、あるいは業務時間中の仕事都合による利用のみを可とするのか。パートナーや親などが子どもの世話をできる場合はどうするのか。さらに細かく決めるなら、残業や休日出勤によるベビーシッター利用も認めるのか、認めないのか。どのようなシーンで使える制度なのかを、あらかじめ明確化しておきましょう。

(4)申請のタイミングや方法は?

ベビーシッターを利用したことを申請してもらわないと、金額の把握も補助もできません。申請のタイミングは事前のみか、事後も可か。誰宛に申請をするのかを決めておきましょう。ベビーシッターは急遽依頼することが多いはずなので、申請は事後も可として、直属の管理職か、人事・総務などの担当部署に申請してもらうとよいでしょう。

(5)制度の対象者を決めるか?

次に、制度の対象者についてです。「同一労働同一賃金の原則」があるので、正規・非正規といった雇用形態の違いから、福利厚生に差を設けることはできません。ですから、正社員のみの福利厚生にすることは法律上NG。正社員・契約社員・アルバイト・パートも含めて対象となるように設計しなければなりません。もちろん、女性のみを対象とするなど、性別で待遇差を設けることも、望ましくないので注意が必要です。

(6)何かトラブルが発生したときの責任の所在は?

ベビーシッターの活用が進む日本ですが、最近、残念な事件も発生しました。何かトラブルが発生した場合、企業としてどういう対応を取るのか、事前に決めておきましょう。また、自社社員とベビーシッターとの間で生じた紛争について、会社が法的責任を負うのか、負わないのかについても、あらかじめ社員に提示しておくほうが、後々のトラブルを防げます。

国のサポート制度 「ベビーシッター派遣事業」

制度の概略がまとまったところで、大きなネックとなるのがやはりコストです。ベビーシッターをお願いする場合の相場は、1時間につき1000円~4000円程度。決して安いものではありません。ここでひとつ紹介したいのが、内閣府が実施しているサポート制度です。その名も、 「企業主導型ベビーシッター利用者支援事業」。企業で働く社員が、ベビーシッターを利用した場合、その一部を国が助成してくれます。この制度を活用すると、比較的容易にベビーシッター補助制度を導入できます。

仕組みは簡単です。まず企業が、内閣府から運営を受託している「公益社団法人全国保育サービス協会」に対して申請を出します。子ども・子育て拠出金の納付を行っている企業、つまり厚生年金に加入している企業であれば、どんな企業でも申請ができます。

企業が申請手続きを行えば、全国保育サービス協会から、企業に対してベビーシッター派遣事業割引券が発行されます。その割引券を育児中の社員に配布して、使ってもらうという流れです。ベビーシッターを利用した後は、割引券の半券を回収し、全社利用分をまとめて、全国保育サービス協会に提出します。

詳しくは、以下の概略図をご確認ください。

その他、本制度の特徴

  • ✓ 対象企業:子ども・子育て拠出金の納付を行っている企業
  • ✓ 割引額:対象児童×2,200円/1回あたり(多胎児2人:9,000円、多胎児3人以上:18,000円)
  • ✓ 対象児:乳幼児・小学校3年生までの児童が対象(障がい児は特例あり)
  • ✓ サービスの提供者:認定された割引券等取扱事業者(一覧)
  • ✓ サービス利用範囲:家庭内における保育・世話、保育園などへの送迎
  • ✓ 利用手数料:大企業は割引額の8%、中小企業は割引額の3%

企業負担の利用手数料が少しかかりますが、1回につき2200円の割引額は決して小さいものではありません。申請さえすれば、多少の事務作業を行うだけで使える制度なので、活用してみてはいかがでしょうか。

ベビーシッター補助制度は、「子育てをしていない社員」も救う

企業に導入されるベビーシッター補助制度は、表向きは子育て中の親を支える制度でもありますが、実は周囲のメンバーをサポートすることにもつながります。なぜかというと、急遽、誰かが休むことになった場合、その穴埋めをするのは周囲のメンバーだからです。チームワークだと、フォローしつつ、されつつは当たり前ですが、とくに忙しい時などは本音が出てしまうこともあります。

たとえば、結婚式場のノバレーゼさんのように、週末が忙しい企業もたくさんあります。しかし、保育園や学童は日祝に開所していないところが大半。子どもの預け先がない親は、忙しい週末ばかりシフトに入れないことになります。逆に、他のメンバーは週末に休めません。そうすると、両者に溝が生まれがちです。しかし、ベビーシッターを活用できれば、他のメンバーと同じように働ける可能性が生まれます。管理職も家庭の状況に関係なく、公平に仕事を割り振ることができます。

以前、化粧品メーカーの資生堂が、育児中の時短勤務社員に対し、店頭が忙しい土日や夕方の遅番シフトに入ってもらうよう要請したことで、波紋を呼びました。いわゆる、「資生堂ショック」です。女性の活躍を推進していた資生堂では、子育て社員への過剰な配慮が、逆に職場の軋轢を生んでしまいました。それを是正するために、あえて子育て社員への配慮をなくしたのです。この改革は賛否両論あったようですが、育児中の社員も、そうでない社員も公平にしたという意味で、最先端を行っているようにも感じます。

過剰な配慮をなくして、公平な対応にし、職場の空気を整える。そして、保育園や学童保育だけでは行き届かない部分を企業がサポートする。ベビーシッターだけではなく、ファミリーサポートや病児保育など、セーフティーネットはさまざまあります。それにかかる追加費用を企業が少し負担するだけで、職場の雰囲気は変わってくるかもしれません。

過剰配慮型の子育て支援から少し方向転換し、子育て中のメンバーも周囲のメンバーも、気持ちよく働ける職場を目指してみてはどうでしょうか。それが職場の空気をよくし、最終的に社員の定着率向上につながるはずです。

ライター:林 和歌子
大学卒業後、人材サービス大手で約12年間勤務。主に企業の採用活動に携わる。採用という入口だけではなく、その後の働き方にも領域を広げたいとの思いで独立。現在、採用支援を手がける傍ら、働き方に関するコンテンツなども執筆しています。京都大学文学部卒業(社会学専攻)。2015年、社会保険労務士の資格取得。
2020年09月03日